第49話

 後日談、と言えばいいのだろうか。

 特に言うことは何もないのだが、まぁ事の顛末である。


 まず、魔獣の侵攻についてだが、これは深夜ということもあり気づいた人はそれほどいなかった。


 だが魔獣の侵攻──スタンピードが起こったということは知らせておいた方がいいだろうと言うことで、王家から事実を述べた文章を簡単に言うとばら撒いた。


 王都の新聞社などに情報をリークし、それは瞬く間に王都中に駆け巡った。


「まぁ、本当は知らせたくなかったのですけれど、勘づいている人もいたらしいので、いっそ公式で認めた方がいいと思いましたので」


 と言うのはミリア王女が僕らの前で溢した、愚痴のような物だ。本人は否定しているが。





 そして、そんなスタンピードを起こした張本人である麗華はというと、なんと意外なことに生きていた。


 あの時首を切断されたが、時の神クロノスで自分の時間を巻き戻したのだろう、僕らが帰り際に寄った時、五体満足で寝ていた。疲れ果てたかのようにぐっすりと。


「えいっ」


 と言うことでもう一度殺しておいた。


 今度は僕が彼女の魔力を吸い取って、スキルを使えないようにしてから。


 その時思ったのだが、なんで僕は魔力を吸えるのだろう。だが、その答えは近くの人が示した。


「きっとスキルが空洞のような物だから……だと思うよ」


「ネヴァ?」


「スキル……私の場合神の権能だけど、それを得た時思ったの。これ、魔力の塊だって。スキルって多分、魔力の塊がなんらかの形で特性を得た物じゃないかって。でも言語スキルだけは違う。常時発動型でありながら魔力を一切使わないなんてそんな事はあり得ない。きっとハルキは無意識に空気中の魔素をスキルに流してたんだと思う」


「なるほど……」


 それを聞いて確かにそうかもしれないとは思った。それのお陰で魔術なんてものも編み出せたのだから。


 まぁ今後は──


主人あるじ


「ん?」


 ルールイ──ムシカゲ達とかキエル達に対してだけに使うのだろうけど。


 何故ムシカゲはムシカゲと呼ばれているのか。そして、

 麗華と対峙している時、ムシカゲ達だけが彼女のそばにおらずにどこか別のところに行っていた。

 別のところに行っていたのは僕が逃したからでもあるし、彼女達を麗華に近づけたくなかったってのもある。気持ち悪いって言っていたしね。


 僕はその気持ち悪い、と言うところに着目した。


 きっと彼女達は魔法耐性が弱すぎる代わりにスキルの耐性が強すぎたのだ。


 それを120年前に知った麗華は“するにも値しない同然のゴミ”という意味合いを込めて“ムシカゲ”と名付けたのだろう。このムシカゲという名前の語源はカルナル教から来ているらしいから間違っていないはずだ。


 彼女達も麗華に酷い目に遭わされた被害者と言えるだろう。


『自分たちはこれからどうすれば?』


「うーん……保留」


『えぇ……』


 


 次は勇者──銀上らの話をしよう。


 結論から言うと、彼らは死んだ。死体は既に食い散らかされたのか、はたまた燃やされたのか知らないが、ネヴァが今までいた死の荒野には何もなかった。


 ま、どうでもいい。


 僕が重要だと思ったのはクォーバルグレムリンらだ。


 彼らはどうやら無事メグの故郷だった村で今はひっそりと暮らしているらしい。魔獣にも寿命はあるらしいので、今後はそこで暮らしていくんだと。


 その際ネヴァに別れの挨拶をしたいとのことで、ネヴァは一度だけ彼らの元へと向かった。


 僕はその時一緒に行っていなかったからどんな感じだったのかは知らないが、まぁネヴァの目の端が赤くなっていたことから、ご察しの通りだろう。

 

 今後もたまに会いにいく約束もしたのだとか。



***


(side ミリア)


「ふぅ……」


 私は静かに息を吐く。ようやく重かった肩の荷が降りたからだ。


 最初は確かに私の失態だったが、それを返上できるほどの人物が異世界人でいたのは不幸中の幸いだった。


『ミリア様』


「今ここには私とあなたしかいないのだから普通にガブリエルでいいですよ。カオリ」


『では、ガブリエル様。お尋ねしたいことが』


「何?」


 すると目の前で小さな生き物──ハルキ曰くトカゲと呼ぶものだそうだが──は体を光らせ姿を変えた。人の姿に。


 その姿はかつて実在した英雄。


「何故、元の世界に返さなかった?彼らは私の同郷のものだったのだぞ?」


「はぁ……そう言われると思ったわよ。私の愛しいカオリ。でも、無理だったのよ」


「無理だと?何を言っているガブリエル。貴方の力なら世界を越えるなど容易ではないか」


「確かに、そうね。今の状態を何も壊すことなく、維持したままできたわ」


「じゃあなんで──」


「占い」


「っ」


「カオリなら分かっていたはずよ。結局、彼らの運命はあそこで終わっていたの。私が異世界に引きづり込まない限り」


「だがそれは──」


「戻したら、果たしてどんな時に戻るのかしらね?」


「っ!?」


「きっと転移が行われたその日に戻っていたはず。そして彼らは結局──」


「……死んでいた」


「えぇ。でも不思議だったわね。なんで、3?」


「っ!?まさか……」


「そうね。推測の域を超えないけれど、ハルキコウザキ……彼は策士よ。それも、未来をそのまま見たとした思えないほど高精度な予測を立てれる、そんな策士。聞いたことがないわ。たった数個の情報だけで


「……確かに」


 カオリの命令権を一時的に譲渡したけれど、その時のカオリの使い方は天晴れの一言だった。

 少しの情報だけで全てを知り、そしてその活用法どころかその後の彼女がどうやって考え、どのように動くのか、それらが全て分かってしまう。




 正に化け物。




 彼だけは敵に回してはいけないと、神としての勘が告げている。


「あれはなんで生まれてきたのかしら。不思議よねぇ」


「……あぁ、そう言われて合点がついた。そうだったのか、彼が……」


「知っているの?」


「ええ。私の予想が間違っていなければ、私のいた世界で彼はこう呼ばれていたよ」





 ──魔王、と。





 私はそれを聞いて、もう一度ため息を吐いたのだった。



***



「ロンダーさん、これでいいですか?」


「はい。にしても……大丈夫ですか?」


「大丈夫……とは?」


「ほら、勇者様たち、亡くなったのでしょう?それで何か病んでいたりしていないのかな、と」


「……問題ないですよ。そもそも、僕と彼らは住んでいた世界が違かったんです。僕はこうして働けるだけでいい。彼らは役目をしっかり果たしました。僕はそれが嬉しいんです」


「……なるほど。なら、大丈夫ですね。それにしても、惜しい人たちを亡くしました……まさか生存者が二名だけだったとは」


「まぁ、同郷のものが二人だけでもいるだけ良かったです」


「そうですね。それでは、作業に戻りましょうか」


「はい」


 僕はいつも通りの日常をまた送り始めた。庭師としての日常を。


 こんなに頭を使ったのは久々だ。こういった安らぎを求めて何が悪い、と心の中で言い訳みたいなものを思いつつ、作業を続けた。


 結局ほとんど僕が思っていた通りの展開になったけど、一つだけ見当違いだったことがあった。


 それは麗華だ。


 正直見くびっていた。彼女がそんなことできるわけないと、たかを括っていた。


 だが蓋を開けてみればどうだ、見事彼女は僕を殺す一歩手前までいったではないか。それが例え僕がそうなるように仕向けたとしても、僕を傷つけ、僕自身の手で魔獣を殺さないといけないところまで持っていった。


 賞賛に値する。


 が、その過程を僕に見透かされていた時点で負けは決まっていた。


 僕と良い遊びができると思っていたのだが。




 ともかく、だ。




 これで一旦の収束を迎えた、と言って良いだろう。



 今後はこんな風に謀略を練る必要がないように、生活していきたいな。



 と、綺麗に咲くクレマチスの花をバッサリと切りながら思うのだった。



 



 完。


─────────────────────────────────────

 

 [あとがき]

 

 と言うことで、ここまで読んでくださり誠にありがとうございます!!


 最後結構ごっちゃになったかなぁ……と思いつつも興奮した私の指はいうことをいかずに突っ走るもんですから……まぁ仕方ないよね?



 

 最後になりますが、ここまで読んでいただき本当にありがとうございます!!まさか異世界ファンタジージャンルで総合ランキングに乗るほど伸びたと言うこの経験は私の中で数少ない良い経験となりました!!本当にありがとうございます!!


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 チョロイン、覚醒す〜彼女を陰から見守る僕の観察日記〜

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集団転移が起きたけど、“トカ言語”とか言う謎スキルのせいで僕だけ城の庭師に弟子入りすることになりました 外狹内広 @Homare0000

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