第07話 通学路を闊歩す

 

 とある住宅街を 、二人の美女が闊歩している。一人はウェーブがかった茶髪ポニーテールにワンピース姿の大学生。そして、もう一人は毛先の色素が薄いウルフカットに制服姿のダウナー系女子高校生だ。


 二人は軽口をたたき合いながら通学路を歩いているというのに、その様は優美で、何者をも寄せ付けない絶対空間を展開している。姉妹特有の隙の無い状態、とでも言うのだろうか。


 と、そこに二人の女子高校生が通りかかる。制服から察するに、ダウナー系女子高校生である秋城渚沙と同じ「律央りつおう高校」の生徒だろう。


「えっ……なに、あの子。めっちゃ可愛い……!」

「ほんとだ。あれ、うちの制服……うちの高校にあんな子居たっけ?」

「横に居るお姉さんもすっごい美人だし……」


 茶髪ポニテとダウナーに釘付けになっていたのは、二人だけではない。後から来た男子高校生三人組もまた、その姉妹から目を離せずにいた。


「うわぁあ、なんだあの子! 律高にあんな子居たか!?」

「えぇ、でっか……」

「おい。あれ転校生か? すっげえタイプなんだけど」

「ちょっと俺、話しかけてみよっかな~」


 律央高校への通学路は、いつもより少しざわついていた。



 ◆ 秋城渚沙視点 ◆



「なぁ、なんかすっごい見られてないか? 俺達……」

「きっと、なぎが可愛いから皆見惚れてるんだよ~」


 俺の姉はへらへらした様子である。まったく、人の気も知らずに呑気なものだ。


「ここで同級生とかに会ったら気まずいな……俺だって気付かれないといいんだけど」

「そんなのどうせ教室に入ったらバレるんだし、遅かれ早かれってやつでしょ」

「そ、それはそうだけど……」


 ああ、すんごい憂鬱だ。

 月曜日の朝とかはまさしくこんな気分になるものだが、生憎と今日は金曜日。


 普通であれば「今日を乗り切れば明日からお休みだ! おっしゃあ頑張るぞ!」のテンションで駆け抜けることが出来るのだが、俺にはその今日を乗り切ることすら難しい。〇槻班長に怒られてしまいそうだ。


 今まさにUターンを検討していると、そこに。


「あのさ。君、律高の子? 同級生タメだよね? 転校生?」


 ふいに、一人の男子高校生に呼び止められる。後ろを振り向き、俺は絶句した。


「げ……」

「どしたの、なぎ。知り合い?」


 後ろに居たのは、茶髪イケメン。音無らがいつも教室内で集まっている陽キャグループの一人、「式咲弦しきざきげん」だった。イケメンであること自体気に食わないが、それ以上にむかっ腹が立つのは、こいつが天沢さんの隣の席だということだ。


 音無のグループでは序列がほぼ決まっていると言っていい。音無が天沢さんを狙っている為あまり目立った行動はとれないが、グループのメンバーも隙あらば天沢さんを狙っているのだ。

 現にこいつも、隣の席であることを良いことに、授業中も毎時間のように天沢さんに話しかけたり、わざと消しゴムを飛ばすなどのちょっかいをかけている。なかなか陰湿なことをしやがる奴である。


 はぁ……第一ラウンドから最悪の相手だ。虫唾が走る。あー、今すぐこいつの足元に唾でも引っ掛けてやりたい。


「知らん。誰だお前は」

「うわ~。君、けっこー毒舌なんだねぇ。はは。オレは式咲弦って言うんだ」


 冷たく言い放った言葉ジャブも、ひらりと受け流され。乾いた笑い声を挟みつつ、自己紹介をされる。誰だと言った手前申し訳ないが、わざわざ知っていることをもう一回繰り返されると無性に腹が立つ。いや、これはもう俺が悪いな。すまん。


「で。俺に何か用?」


 ちなみに、俺は式咲とは話したことが無い。故に、会話するのは式咲に話しかけられた今回が初めてだ。なぜ今更話しかけられたのか、理由は明白である。


「はは、めっちゃ可愛い子いんじゃんって思ってね。話しかけちゃった」


 俺が、美少女JKをしているからだ。


 式咲は泣きぼくろの付いた目元を歪め、乾いた笑みを浮かべる。反応に困っていると、姉がずいっと俺と式咲の間に。


「あのさ。君、うちの妹に何か用かな?」


 おお、姉は強し。穏やかな出で立ちだが、語気は強めである。


「お姉さん、もしかして大学生? すっげー可愛いね、はは」

「え? あ、そ、そうかな? ふひひ……」


 前言撤回。一瞬で無力化されてしまった。

 ……まあ、確かにこのレベルのイケメンであれば、姉はイチコロだろう。中身はともかく、外見はモデルや芸能人に居てもおかしくないクオリティだからな。


 姉の手首を掴み。


「俺達、急いでっから。用が無いならどっか行ってくれない?」

「あー、はは。ごめんね、引き留めちゃって。もしよかったら、LANEレインとか交換できないかなーって。はは」

「えっ! ぜ、ぜひしま――」


 姉の手をぐいっと引っ張り。


「――せん。行くぞ、ねーちゃん」

「あ、ちょっとぉ!」


 すーぐこの人は。しかも、式咲は未成年だ。何か問題があって姉が投獄されようものなら目も当てられない。

 姉の手首を掴んだまま、足早にその場を後にする。


「まさか、式咲に話しかけられるとは……」

「もったいないなぁー。あのレベルのイケメン、なかなかお目にかかれないんだよ? 大学でも数えるくらいしか居ないしさぁ」

「知らねーよ……」


 イケメンを忌み嫌う俺からすれば、そんなものは戯言にしか聞こえない。俺はテレビに映るイケメン共に中指を立てて生きてきた人間だ。


 ……そう言えば、姉や母、父はそれなりに美形なはずだが、なぜ俺は容姿に恵まれなかったのだろうか。もしかして捨て子……。いや、その線は無いな。


 もしそうだとすれば、まず教えられていないことがおかしいからだ。その上、病院に行けばその手の検査もされるだろう。血が繋がっていないことを今になって明かすことも考えにくい。よって、これは俺の怠慢の結果だ。甘んじて受け入れよう……。


 とはいえ、この十六年余りの怠慢の結果とやらは、この世から消滅したわけだが。


 と。姉は三叉路で立ち止まる。


「あ――あたし、こっちの方向が近道だから。さらばだ、妹よ!」

「あ、ちょっと、ねーちゃん! ……もうちょっと、だけ」


 姉の服の裾を親指と人差し指で摘まみ、引き留める。

 俺一人で通学は無理だ。もう少しだけ、姉に付き添ってもらいたいものだが――。


「はぅ――――!?」


 姉が奇声を上げる。


「……んえ? ど、どした?」


 ついに人間を辞めてしまったのかと心配したが、そんなことはなく。姉は辛うじて人間の原型をとどめたまま、鼻を抑え始めた。


「鼻血、出たかも」

「え!?」


 見ると、確かに姉の人中あたりに赤いものが垂れているのが分かる。俺は急いでポケットティッシュを取り出し、姉に手渡した。


「ね、ねーちゃん、ほら、これ! 返すの忘れてたけど! 使って!」


 それを受け取ると、姉はぷるぷると震えだし――――。


「……うちの妹がっ!! 可愛すぎるぅぅぅ!!」


 更に鼻からダバダバと出血。


「ちょ、ちょっと! 死んじゃうから! 一旦落ち着けって!」


 それから姉の鼻血が止まるまで、実に十分間を要した。ちなみに、姉はギリギリ講義に間に合ったとか、間に合っていないとか。


 ◇ ◇ ◇


(めちゃくちゃ★が欲しいです。皆さん、もし、もし面白いと思ってくださればで構わないのです。何卒、何卒「高百合」を上位に押し上げてください……!)

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陰キャオタクの俺、朝起きたらダウナー系美少女JKにTS⇄していたので、ずっと前から好きだった高嶺の花と百合の花を咲かせたいと思います『高百合』 秋宮さジ@「棘姫」連載中 @akimiyasaji1231

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