色彩違い

そうざ

Color Preference

「あっはっはっ!」

 夫がモニターの黄色い画面を観ながら笑い転げている。

「何が面白いのか全然解んない」

 かたわらで呆れ顔の妻がぼやいた。

「よく観てみろよぉ。レモンイエローよりちょっと濃いけど蒲公英色たんぽぽいろ向日葵色ひまわりいろよりはちょっと薄いんだぜ〜っ、最高じゃんかっ」

「それより、私も観たいものがあるんだけど」

 妻がチャンネルを切り替えると、真っ黄っ黄だった画面が一転、真っ赤っ赤に染まった。途端に妻の目がとろんとした。

「お前、相変わらずこういうのに弱いよな」

「情熱的で良いじゃな〜い。この深紅しんく猩々緋しょうこうひを一滴垂らしたみたいな感じが素敵だわ〜」

「全く理解に苦しむね」

 夫がリモコンを手にすると、画面は真っ青になった。

「セルリアンブルーがナイルブルーに移り替わる途中みたいな色合いが堪んないだろ?」

「私は、ターコイズブルーかシアンを混ぜて欲しいわ。それなら神秘的で良いわ」

「解ってないなぁ、それよりは瑠璃色るりいろ寄りのマリンブルーの方がぞくぞくするだろう」

「有り得ないわ。だったらいっそ錆浅葱さびあさぎやサックスブルーや――」

「馬鹿っ、それを言うなら縹色はなだいろを基調に勿忘草色わすれなぐさいろを――」

 夫婦喧嘩は、ピーコックブルーとピーコックグリーンの攻防史、藤色ふじいろ藤紫ふじむらさきの近親憎悪論、朽葉色くちばいろ煤竹色すすたけいろいぶし銀的有意性に展開し、そのまま決裂した。

 夜更け過ぎ、妻は生成色きなりいろ胡粉色ごふんいろの違いを楽しもうと、こっそり寝床を起き出した。

「あっ」

「あっ」

 視線が重なった瞬間、二人はほぼ同時に声を挙げた。

 居間には下半身を丸出しにした夫が居た。画面は桃色ももいろ一色だった。

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色彩違い そうざ @so-za

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