失恋した私、お持ち帰りから始まる最低な恋
星乃森(旧:百合ノ森)
プロローグ
私は恋人の
突然足を止めた彩里ちゃんは、至る所から流れるラブソングやクリスマスのテーマソングに似つかわしくない様相で私に相対した。
「詩、私たち別れようか」
寒空の下、彼女から突然告げられた言葉に私は自分の耳を疑った。
「別れようって……」
頭が混乱して、ただ彩里ちゃんの言葉をオウムのように返すことしかできなかった。
別れる。私と彩里ちゃんが?何かの間違いではないだろうか。でも今、この瞬間に彩里ちゃんと話していて、彼女から別れを切り出されたのは私しかいないわけで。
「……うん。小学生の頃から詩を見てきてるからさ、悪い子じゃないのは知ってるよ?でもわたしじゃ
まだ事態を呑み込めていない私に、一方的に別れの理由を語る彩里ちゃん。彼女の発する言葉は一方通行で、降り始めた雪の冷たさに乗って私の全身を切り裂いた。
応えられないって、どういうこと?だって彩里ちゃんは私の想いに応えてくれたから彼女になってくれたんじゃないの?
今になって応えられないと言われても、私には彩里ちゃんの言動が理解できなかった。
「私は!彩里ちゃんのこと大好きだよ?別れたくないよ……」
私は彩里ちゃんの服の袖を掴んだ。
事態を呑み込めないなりに私は縋った。彩里ちゃんのことが好きだと、このまま彼女であり続けたいと訴えた。
でも彩里ちゃんは無言を貫く。俯き加減で目を合わせてくれない態度が、彼女が本気であるのだという事実を知らしめる。
「ごめん。良い人が見つかると……いいね」
尚も黙りこくる彩里ちゃんは申し訳なさそうな表情で私の手を振り払い、最後に一言だけ残してこの場を去った。
「彩里ちゃん!」
無情にも小さくなっていく彩里ちゃんの背中。私の呼び声は喧噪に掻き消されてしまい、誰にも届かない。
たった1人残された私の胸の中には痛みすらなく、空っぽになってしまったことを実感した。
大通りで人の往来も多いはずなのに、彼らの存在感を認識できない。まるで神経を切除されたかのように足元がおぼつかなかった。恋人の彩里ちゃんがいなくなった私には、悲しみ以外に知覚できるものは残されていないのかもしれない。
ならいっそ悲しみも取り除いて。彩里ちゃんの傍にいさせて。
「なんで、彩里ちゃん……!」
私はその場にしゃがみ込んで呟いた。
私の前から消えた彩里ちゃんはもとより、誰もその問いかけには答えてくれなかった。
破局した私を、ラブソングがただただ煽っていた。
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