メスティン折

十三岡繁

メスティン折

 飯盒と言えば大抵の人がイメージするのは、兵式飯盒という豆型のものだと思います。ご飯が四合まで炊けるので、大人数の時はこれが便利です。但しソロキャンプや登山時には大きすぎます。それで最近流行りなのはメスティンと呼ばれるアルミの小型飯盒です。


 出回っているサイズは大中小とありますが、この中型サイズが元々のレギュラーサイズで、最大二合まで炊けます。但し二合は本当にギリギリになりますし、一人ではそんなに食べないので、愛用している人は一合を炊く事が多いと思います。


 アルミ製なので熱伝導率が高く、環境の変動が激しい山などでも、安定して失敗なく米が炊けます。但し、通常のアルミ製のものは一度ご飯を炊くと米がこびりついてしまいます。


 最近ではフッ素コーティングをしているものなんかも出回っていて、これであれば米はつかないんですが、空焚き厳禁で金属製のカトラリーや調理用具も傷の事を考えると使えません。


 キャンプ時はともかくとして、登山時などではなるべくコンパクトに荷物をまとめたいので、このメスティンの中には何かしらの小物を入れて持っていく事が多いです。ただ、現地でご飯を炊いて米がこびりついてしまうと、そこから先は同じものを入れるのはちょっと気持ち悪いですよね。それで食後にメスティンでお湯を沸かしてスープにするなどし、ついでに内側を洗ってしまうというのが一番メジャーな清掃方法だと思います。


 しかしもっと手軽に、最初から米がこびりつかないように炊飯する方法がないかと探していたところ、中にクッキングシートを敷き込んで炊くというアイデアをネットで見つけました。早速試しました。ただこれが結構面倒くさくて現地で炊飯準備に時間をとられます。


 そこであらかじめ、折り紙でいうところの箱折を応用して、クッキングシートを使った折り畳み式のインナーを作る事を思い付いたわけです。これをメスティン折と名付けて、折る手順を図示してネットで公開しました。


 現地での時間短縮と、米のこびりつき防止という目的を達成する為には申し分無かったんですが、折るのが面倒だという事で、あまり真似をしてはもらえませんでした。


 そんな時にイノベーションが起こりました。ある登山者が、折り畳み時の目安となる型紙を作って、それを下敷きにして折るとかなり簡単だと言うアイデアを出してくれました。薄っすらと下が透けて見えるというクッキングシートならではの素晴らしい発想でした。


 それを知って私はその方に連絡を取り、その型紙をデーター化してネットに公開することにしました。これはなかなかに人気を博しまして、かなりメジャーなYOUTUBERなどにも紹介してもらえましたし、雑誌などにも取り上げられました。


 中には半分のサイズで作って、これを二つ使う事で炊飯と調理を同時に行ってみたり、浅くすることで二段重ねで調理するなど、色々なバージョンも生まれてきました。


 そうして遂には名称が微妙に違う「メスティン折り」なるものが100均ショップで発売されるに至りました。いくつかの100均ショップで微妙に名前を変えて売られています。各ショップの方からは何の連絡もありませんし、特に何かをもらったりもしていません。


 でもそれでいいんです。最初からパテントやら権利やらはフリーという事で公開してました。これは型紙というアイデアを出していただいた方とも話しましたが賛同してもらえました。山に登ってメスティン折を使っている人を見かければニヤリとできます。それで十分です。


 最近ではすっかりメジャーになってうれしい限りですが、開発の経緯などを記録として残しておいた方がいいかなと思いこの文を書きました。


ぶんぶんさんに感謝を込めて…Fin

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

メスティン折 十三岡繁 @t-architect

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ