第2話 しばらく泊まって良い?

 妹の香澄かすみが、離婚の愚痴を言うために俺の家にやって来た。酒を飲みながら言いたい放題話していたが、酔いと疲れの影響で机に伏せて寝始めた。


狭い1Rに2人きり。俺が昔から抱いていたシスコンが爆発しようとする…。



 香澄と向かい合って座っていた俺は移動し、彼女の横に付く。…まったく気付いていないな。ここまで来たら我慢できん。


俺は香澄の生足に優しく触れる。こういう時はスカートのほうが良いよな~。

ズボン越しでは満足できないだろう。


…スベスベでいつまでも触っていたい。“最高”以外の言葉が思い付かない。


「う~ん…」


マズイ、香澄の意識が戻りかけている。このまま触り続けるか・戻るか。判断に迷うぞ。


…手を止めて考えたが、戻ることにした。もしこんな状況がバレたらどうなる? 「変態!!」と罵られ、2度と会ってくれなくなるかもしれない。


それだけは絶対に避けないと! 焦らなければ、香澄に触れるチャンスはある…はず。こういう時でも『急がば回れ』だな。


俺は物音を立てずに、元の場所に戻った。



 「……ん~」

机に伏せていた香澄が顔を上げ、伸びをする。


「兄さん。あたしどれぐらい寝た?」


「10分ぐらいだな」


「そっか…」


良かった、反応的にバレてないぞ。元の場所に戻って数分経過したから、もっと触れた気がする。…って、欲張り過ぎはダメだな。自重しないと。


「兄さん。シャワー借りて良い? ここに来るまでに、結構汗かいちゃって…」


「もちろん良いぞ。…お前が使って良いバスタオルとかを探してくるわ」


「お願い」


俺は手に取ったスマホを香澄に見られないように注意しつつ、脱衣所に向かう。



 俺がスマホを持って脱衣所に来た理由…。それは香澄の一部始終を撮るためだ。

スマホの画質はイマイチだろうが、撮れるだけ感謝するか。


手早くタオル類をセットし、スマホを置く場所に細工をする。…よし、これでバレないだろう。俺はスマホを録画にしてから定位置に置いて、脱衣所を出る。


「悪いな。時間かかって」


「良いよ。急に来たあたしが悪いんだし…」


「ゆっくりで良いからな。俺は済んでるから」


「そうなんだ。じゃあ、のんびりさせてもらうね」

香澄は着替えやドライヤー類を持って脱衣所に向かう。


どんな風に撮れるんだろう? 成果が楽しみだ。



 アニメを観て時間を潰していたら、香澄が脱衣所から出てきた。


「お風呂ありがとね~」

部屋に戻って来た彼女は嬉しそうに伝えてきた。


「気にするな」

いつスマホの成果を確認すれば良いか? タイミングが難しいぞ。


「ねぇ兄さん。今日泊めてくれない?」


「それはちょっと…」

本心は大賛成だが、普通の兄貴は止めるよな?


「冗談だよ。カプセルホテルに泊まるからさ」

香澄はそう言ってから、自身の大きなリュックを漁る。


…小さめのハンドバッグを出してから、色々入れ始めたぞ。


「化粧道具とかは、携帯のようにそばにないとね」


女子は荷物が多くて大変だ。財布があれば十分の男とは違う。


「兄さん。明日の朝って家にいる?」


「ああ、いるぞ」

ぼっちかつネットで買い物するから、仕事以外で出かけるほうが珍しい。


「わかった。…じゃあ、明日の朝また来るね」

香澄は玄関に向かおうとする。


「ちょっと待て香澄。夜の内に洗濯したいんだが、お前のはどうすれば良い?」

勝手に一緒に洗濯したら怒られるかもしれないので訊いてみた。


「一緒に洗って良いよ。本当はブラは専用ネットに入れて欲しいけど、兄さんが持ってる訳ないし…。近い内に新しいの買うから、気にせず洗っちゃって~」


「そ、そうか…」

ブラ専用ネットなんてあるのかよ? 初めて知ったぞ。


「他に訊きたいことある?」


「…いや、思い付かない」


「それじゃ、また明日ね~」

香澄は玄関に向かい、家を出て行った。



 あぁ、至福の時間が終わってしまった…。だが明日の朝また来てくれるから、その時を楽しみにしよう。俺は玄関のカギをかけてから、やりたいことを考える。


…そうだ、香澄がいない今なら成果を確認できるじゃないか! 俺はすぐさま脱衣所に向かい、定位置にセットしたスマホの内容を確認する。


思った通り画質は悪いし予想以上に角度がイマイチなので、うまく撮れたとは言い難い。咄嗟にセットしたから、うまくいかなくて当然か。


それでもある程度映ってるし、これを今日のにするか。…って、それよりも良いのがあるな。俺は脱衣カゴに入っている香澄の衣類を観る。


洗濯する以上、汚してもバレない訳で…。俺は目ぼしい物を取ってしてから洗い始める。


洗濯後はさっさと干して就寝した。調子に乗って3回連続して疲れたからだ。気分は大満足だが、体は疲労感でいっぱいになったぞ…。



 翌日。朝食を食べている時に香澄がやって来た。彼女が早いのではなく、俺が遅く起きたのだ。その理由は言うまでもなくになる。


とはいえ、彼女に疲労感の理由がバレる訳ないがな。


「ねぇ兄さん。次の家が見つかるまで、ここに泊まって良い?」

向かい合って座っている香澄が、とんでもないことを言ってきた。


「何でだ? 昨日みたいにカプセルホテルに泊まれば良いじゃないか」

まさかの発言でシスコンが露呈しそうになる。普通の兄貴を演じるのも大変だ。


「そうしたいのは山々だけど、昨日変な人がいたんだよ。また会うかもしれないと思うと怖いじゃん」


そういう理由なら今すぐOKしたいが、もう1クッション入れたほうが自然か…?


「もしゴールデンウィーク中に見つけられなかったらどうする? ここからだと職場は遠くならないか?」


香澄と元旦那の卓也君は、共に勤務地に近いところに住んでいて、結婚を機に香澄が卓也君の家に住むようになった。それから離婚して、彼女が追い出された形だ。


「遠いって言っても、15分ぐらいしか変わらないよ? あたしもお金出すし、狭いのは我慢するからさ~。お願い!」



 香澄にとって、俺は都合が良いというか扱いやすい存在なんだと思う。だからあれこれ言ってくるが、それがご褒美になっている!


「…わかった。気が済むまで、ここに泊まって良いぞ」

昨日の失敗を活かし、今日こそはうまく撮影しないと。


「さすが兄さん。話が分かるね!」

嬉しそうに言う香澄。


「なぁ。父さんと母さんにはどう説明するか考えてあるのか?」

気になるので訊いてみた。


「言う必要なくない? あたし達、実家出てるし成人してるんだよ? 子供の時みたいに全部話さなくて良いじゃん」


確かにそうだな。つまりこの同居は、俺と香澄だけの秘密になるのか。…ヤバい、思わずニヤけそうになる。


「急に手で口を押さえてどうしたの?」


「何でもない…」



 香澄と一時的でも同居することによって、俺の退屈な日常はガラリと変わるな。新しい日常をどう楽しむか、今の内からじっくり考えないと!

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