第3話 🚙誘拐

「あら、一平さん、お昼に帰って来るの珍しいやん」

「うん、ルナのことが気がかりだから学校まで迎えに行こうと思って」


 お昼は3階のダイニングで食べるので、一平は直接上がって来て、テーブルに弁当の包みを置いた。

 洗面所で手を洗って戻って来ると、哲平が弁当を開けていた。


「一平、おまえいつもこんな弁当食べているのか? いいなあ、愛妻弁当」

「哲兄も早くお嫁さんもらうことね」


 レイが娘のオトを椅子に座らせながら言った。


「嫁さんかあ。いや無理だろう。こんな爺さんのところに来てくれる酔狂な娘はおらんだろう」

「あれ~、あんなにイケイケだった哲兄が急に老け込んじゃった」

「じゃあ、可哀そうな哲爺ちゃんに弁当を譲ってあげよう」


 哲平は一平に年寄り扱いされても何も言い返さなかった。それどころか、


「本当にもらっていいのか?」


 嬉しそうに言った。

 いや、哲兄はすでに自分のものみたいに弁当を抱え込んでるし。

 一平はキッチンに向かった。


「ナオさん、ぼくの食べるものある?」

「先にオトちゃんのにゅうめん持って行ってくれる」


「オト、にゅめんだってよ」

「一平兄ちゃん、ありがとう。フーフーして食べようね」

「うん」


 ルナがこの間まで使っていたピンクのお椀を気に入ったオトが譲り受けたものだった。

 「オトは左効きなんだ。アクちゃと同じだ」


 雑誌に目を落としていたガクはなぜか少し恥ずかし気に笑った。


「レイちゃん、代わるよ。ナオさん手伝って来て」


 レイの座っていた椅子にガクが座った。


「にゅうめんも食べたいなあ。俺こんなに欲まみれでやっていけるんだろうか」


  哲平はブツブツと一人呟いた。





 その日は学校で火災訓練があり、ルナの帰宅時間が早くなった。

 もと肉屋さんのあったビルの前を過ぎると、連なっているガレージの前に差しかかった。

 白いライトバンが止まっていて、その扉がガラリと開いた。

 車の中から男の手が伸びてきて、ルナは車の中に引きずり込まれそうになった。

 

 ブーーーーー


 大きな警報音でルナを引っ張る男の手が少し緩んだ。

 車の外から、ルナの手をガッシリと掴み引き出すものがいた。


「走るよ」

 

 クラスメートのヨッシーだった。

 ヨッシーは警報ブザーを鳴らしながら、懸命に走った。

 ルナもヨッシーに引っ張られながら、何度もも転びそうになりながら走った。





 

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