第2話 ☕誰のお茶?

「ナオさん、金を借りに来た友だちをうまく追い返す方法はない?」

「そんなもん、貸す金はない、言うたらええんと違う」

「それを言えたら、こんなに悩まないよ」

「あら、哲さん、意外にあかんたれやねんな。じゃあ、うちに任しとき」


 門扉のインターフォンが鳴り、3階の哲平に来客を告げた。

 ナオはいそいそとウエッジウッドのコーヒーカップを取り出して用意をした。


「いらっしゃいませ」


 ナオはとっておきのすまし顔で、来客の前にコーヒーカップを置いた。


「んっ、まだ誰か来るのか?」

「いや、お前が連れて来たんだろ」

「えっ、俺は一人だよ。嘘だろ、やめてくれよ。気持ち悪いな」


 客は慌てて立ち上がると、要件も言わずにそそくさと帰って行った。

 テーブルの上にはコーヒーカップが3客置かれていた。


「あら、せっかくのコーヒー飲まずに帰ってしもたん」


 3階の仕事場はしばらく爆笑の渦だった。


「ナオさん、お見事」

「何のこと? あら、よかったらコーヒー飲んでいってね」


 ナオは冷めてしまったコーヒーをすすりながら、誰もいない席に話しかけた。




「おかえり。あら、今日もルナは一緒やなかったの」

「うん、、ヨッシーが一緒に帰ろうと言っても、ノコちゃんと帰るって言って断っているそうなんだ」

「あら、幼稚園のときのお友だちの下東良雄君やね。同じクラスなん」

「うん。それがね、ヨッシーが言うには同じクラスにノコという名前の子はいないそうなんだ。それでルナのあとをつけたら一人で帰って行ってるんだって」

「まあ」


 遼平の言ったことに、ナオはまるでヨッシー、ストーカーみたいだと思ったことは言わずにいた。

 

ルナが鼻歌交じりに帰って来た。


「ただいまあ」

「ルナちゃん、それどうないしたん? 拾って来たものテーブルの上に置いたらいややわ」

「でも、これ甘い匂いがするの」


 



 その晩、仕事から帰った一平はリビングのテーブルの上のものに目が釘付けになった。


「これ、どうした?」

「あら、やーね、ごみ箱に捨てなさいと言うたのに。ルナが拾ってきたん。難しい顔してどないしたん?」


 一平は手袋をしてポリ袋にそれをそっと入れた。


 





🏠 下東良雄さんのお名前を拝借しました。ありがとうございました。

  作品『コンプレックス ~心に傷を抱えた少女の一年間~』

  https://kakuyomu.jp/works/16817139555680818001



🎒 この美のこさんのお名前もお借りしました。

 作品『おしゃべりな昼さがり』

 https://kakuyomu.jp/works/16817139555798170124









 

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