第27話 困ったことに
早朝、市場に行った修平君が、浮かぬ顔で帰ってきた。
眠る美久を一人にするわけにもいかないから留守番していたけれど、ついて行った方が良かった?
何かあったのだろうか?
新メニューの話を石崎さんにしたら、怒鳴りつけられたとか?
「石崎さん……いなかったです」
「え、じゃあお魚買えなかった?」
「いえ、それは石崎さんが隣の店舗のおじさんに頼んでいてくれたみたいで。いつもの値段で新鮮なお魚を売ってもらえたんですが」
「新メニューは」
「当然、相談できませんでした。でも、そのことよりも石崎さんが心配で」
だよね。
優しい修平君のことだから、自分のことより石崎さんが心配になるよね。
「心配せんでも、あのクソババアのことだから自分で解決するじゃろう?」
修平君の鞄の中で、招き猫に戻った官兵衛が口をはさむ。
「でも……昨日の荒れようは気にかかります」
「だよね。あんなに酔っ払っていたもの」
どうしよう。
このまま、石崎さんがお店を辞めてしまったら。
「おはよう……」
美久が目をこすりながら起きてくる。
「わっ! 時間! もう美久が起きる時間なの??」
「し、仕込みしなきゃ!!」
美久の姿を見て、修平君と私も慌てる。
学校に行く時間に合わせて起きてくる美久。普段なら、もう仕込みを始めてひと段落ついている頃合いだ。
「朝ご飯、あのシチューを食べておいて下さい! い、今、温めてますから!!」
バタバタと厨房へ向かう修平君。
「美久も手伝う!」
「じゃあ、お皿やスプーンなんかを並べてください!」
美久は、修平君を追いかけて厨房へ入ってしまった。
リビングにコロンと転がった官兵衛を拾って、私はいつもの棚の上に載せる。
「全く。修平め。まず我を鎮座させるのが先であろうに」
「それだけ慌てているんでしょう?」
「修平の奴、ずいぶんと心配しておってな。隣の魚屋の店主に、石崎のババアの様子を根掘り葉掘り聞いておった」
「聞けたの?」
「聞けるわけないであろう? どこのサスペンスドラマの目撃者じゃ。そんな人のプライベートを勝手にペラペラ話す訳がない」
だよね。
警察でもなければ、そんなに人の情報をうかつに話さないだろう。親しい人なら特に。
だから、実際の時間の犯人も、普通の人に見えたけどね」とか「朝の挨拶も返さない人」程度の極薄の証言ばかりになる。
でも、ここには官兵衛がいる。
人の考えが読める官兵衛が!
「ねぇ、官兵衛なら……色々分かったんじゃない?」
「うっ!」
やっぱり。
素直な修平君は、官兵衛の能力を甘くみている。
この招き猫、勝手に人の考えを読んでやがる。
「ねぇ、教えてよ。石崎さんがどうして今日、お店を休んだのか」
「しかし、向こうの都合もあってだな……」
「官兵衛、これは、お店のためでもあるのよ。石崎さんが気になって、修平君が集中できないのは、困るでしょ?」
「む……」
店を守るのが仕事の官兵衛だ。
店のためと言われれば、弱い。
「心配するから、修平には言うなよ」
「分かったから!」
信用ならん……。官兵衛は、ブツブツと文句を言いながらも、石崎さんの事情を教えてくれた。
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