第5話

 俺は日曜の朝早く家を出た。誰にも行き先を伝えなかった。心配して欲しいという気持ちがあったのかもしれない。妹がいなくなってからというもの、両親の頭の中は四六時中妹のことでいっぱいだった。俺の学校の連絡事項なども忘れてしまうほどだった。参観日も面談も来なかった。


 俺は水筒と食料を持って自転車で山に向かった。前に車で行ったことがあるから、道は大体わかったし、迷ったとしても行き先がわかっているからその方角を目指せばいいだけだ。


 1時間くらいかかってしまったけど、意外とあっさりその山の麓まで行くことができた。その後は登山道になっていて、寺まで登っていく必要があった。自転車で登るのはきついから歩いて行くことにした。


 自転車は盗まれないように、登山道の入り口付近の植え込みに隠しておいた。


 登山道は誰も歩いていなかった。観光地でもないから仕方ないのかもしれないけど、ちょっと不気味だった。日曜日ならもっと人がいても良さそうだった。本当にここで合っているのか心配になったけど、確かにさっき下の方に〇〇寺と書いてあった。そこは平安時代に開かれたいう古いお寺で、平家の落人伝説のあるところだった。平家の人たちを匿っていたらしい。平清盛の娘である建礼門院徳子と孫にあたる安徳天皇が落ち延びたという伝説もあった。


 俺は学校でそんな話を聞いたことを思い出していた。俺の地元には自称平家の末裔という家がいくつかあったが、母親の実家もそうだった。


 俺はなんとなく自分の先祖に関係のあるお寺のような気がして緊張した。安徳天皇が亡くなったのは十歳くらいだったはずだ。もしかして、妹は年が近いから連れて行かれたんだろうか。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る