第二幕 死魔天王 カーミット・リューリクス

かの世界、西の地にてきらびやかな晴天の空が差し込める日の下にそびえ立つ

居城があった。


そしてその城の主人は廊下を優雅に歩いていた。誰よれも気高く誰よりも麗しいその姿は背中からでも容易に感じ取ることができた。


彼女の名はカーミット・リューリクス 大魔王軍所属四大魔天王が一角...!

死魔天皇という称号を持ち、サキュバスロードとヴァンパイアロードのハーフである

その特異な血筋ゆえに絶大な力を保有する。これこそ正しく天は二物も三物も彼女へ与えているのだ。才色兼備...それは彼女のための言葉と言えよう。


彼女の直属の魔族から聞いた外見によると、肌は透き通るような白さで人を意図せず惑わす紅い瞳を持ち、サードアイと呼ばれる白目が漆黒に染まった第三の目を持っている。前髪は9:1に分けた片側横流しにしたような形で、後ろ髪は地にギリギリ着かないほど長く、地に近づくほど別れている。彼女の背中にコウモリ翼が2つ、腰当たりに2つと計4つの翼を持っている。両手の爪は長くそして何物にも染まらない漆黒で彩られている。そして彼女の頭に生えている黒きの角は愛らしくも立派で、同じ角持ちの種族から見るとそれはそれはたいそう素晴らしい角を持っているそうだ。


普段の服装は深緑色のゴシックとレースのワンピースだそうだ。

ちなみに毎年行われる大魔王軍ミスコンでは既に殿堂入りし、審査員となっているそうだ。


そんな彼女を目にする者達は次々と手を止め、ただ彼女を見つめている。


「あぁ...カーミット様、今日もお美しい...///」


と城の警備の魔族が口をこぼす、


「いいわぁ...毛穴一つないんだもの...///」


とメイドたちも見とれている様子。


それに対しカーミットはただ無言の笑みを持って対応し通りすがる。

一見この対応は冷たいものと感じるやもしれぬが、彼女の美貌を知る者ではそれだけで良いのである。寧ろそれすら家宝に値すると考える者もいる始末である。


そうしてカーミットはいつものように城の食堂まで足を運ぶ。

そこには長ーいテーブルがあり、幾多のイスが均等に置かれている。

しかし、ともに食事をするものはおらず、ただ一人そこで毎日食事をしている。

唯一例外の時があるとすれば、客人が来たときだけであろう。

幾人かの侍女は居れども、食卓の準備、配膳、片付け、ワインを注ぐ、といった雑務のためにいるだけである。


カーミットがいつもの席に着くとワインを持った侍女のメイドが前へ出てくる。


「カーミット様。こちらは健康な若い人間の50人分の50年物にございます。」


と、メイドは仕事口調の平坦なもので言う。人の血、そう人の血である。

我々からすれば恐ろしいワインでしか無いが、そんなのはこの美貌の前においては微々たるもの。そう言えてしまうのが恐ろしいところである。

そしてカーミットは同じように平坦な物言いで一言いう。


「ありがとう...」


その言葉にメイドの胸は”ギュッ!”となるが、己の動揺を気取られぬよう、それで不快にさせぬようにプロの技で気持ちを落ち着かせる。


「ありがとうございます。カーミット様...」


そうして食事も終えて、席を立ち自室へと戻っていくカーミット

その道中の廊下にて、すれ違い様にメイドの一人が食器を転んで割ってしまう。食器といえどこの城のもとなれば安くはない。青ざめるメイドを見つめるカーミット

この場に居合わせたものは血の気が引いた思いをしたという。一介のメイド如きが償えるものではないものを割ったのだから。そしてそこには主がいるという言い逃れの出来ない状態。誰もが最悪をイメージする。しかし、現実は違った。


「あなた...」


とカーミットはか細く言う。それに過剰に反応してしまうメイド


「ハッハイ!!」


少し声が上ずって返事をする。続けてカーミットは言う


「あなた...怪我はないかしら?」


まさかの心配の言葉に戸惑いつつも返事をするメイド


「ハッハイ...わ、私は大丈夫です。でっですが、高級な食器を割ってしまいました。申し訳ございません!以下用な罰でも受ける覚悟はできております!」


と答えたメイド。それに対しカーミットはこう答えた。


「いいわよ、別に...その食器も飽きてきたところだから。怪我がないのなら、それの後片付けをしなさい」


と言い去っていった。メイドは自らの失態に対し寛大な対応をされた己の主人に対し深い、深い感涙を覚えた。


「ありがとうございます!この御恩は一生忘れません!」


と離れていくカーミットに対し大きな声で言った。この場に居たものはカーミット様の寛大な御心を知り、同僚から同僚へと広めていき軍の士気が上がった。


メイドたちが恐れ慄くのはカーミットという人物に恐怖しているのではない、基本的にこのような時代ともなれば主人の意向が全てであり絶対という風潮のあった時代なのだ。どれほど優しき主人であってもその一部を垣間見ることがない限り、畏怖するものなのだ。


そうしてカーミットは自室へと入りその扉を閉じた。

乙女の部屋に相応しき無駄のない、理想と言える部屋がそこにはあった。

彼女はその部屋の床に近づき、一気に気の抜けた風船のように倒れ込み、両手で枕を掴み顔の下に敷いた。すると泣き出した。そう泣いたのだ


「うぅぅ〜〜〜えっぐ、えっぐ」


という感じてせせり泣いた。


「お気に入りの食器だったのにぃ〜〜」


と未練たらしい声で言った。そして続けて言った


「みんな何か冷たすぎない?色々と、食事するのも一人、風呂に入るのも一人、何するにしたって一人。」


どうやら彼女の悩みは耐え難い孤独感だったようだ。自らが持つ美貌のせいで他者との関わりが薄く、近づき話そうとするものは老若男女問わずして居なかった。


「はぁ〜、少し疲れたわ。みんなの理想に答えて、ああいう演技をするのは」


彼女の言動このように少し幼さを感じるのは、彼女の血筋に関係している。彼女のその特異な血筋のため、寿命が通常より長いのだ。それゆえ見た目は大人でも、まだ心に幼さが残ってしまう。そして彼女は親を知らない。彼女の血統を保証しているのは大魔王皇であり、彼女がまだ幼い頃に辺境の貧民街にて孤児としてドブのような生活していた時に大魔皇王にその特性を見抜かれて拾われ育ち、四大魔天王に君臨するほどの実力者になったのだ。


だがそれ故あまり、愛を知らず孤独をという心の穴とその演技を貫かねばならないという重責を負っている。つまり彼女のコンプレックスは周りからの期待と本当の自分とのギャップである。


そうしていると、扉を叩く音が聞こえる。


「カーミット様、少々お話よろしいでしょうか?」


部下の執事がやってきた。カーミットは焦る


(あ!えっとちょっと待ちなさい!!今このだらしない姿を見られては....!)

「何かしら?話ならすぐに済ませてくれる?」


とセコセコとしながらカーミットはそう扉越しにいる執事へ答えた


「大魔皇王様の使者様からご連絡です。10日後の好天の日に全四大魔天王を集結させた近況報告会を執り行うそうです。」


「そう...わかったわ。ありがとう..下がって頂戴。」


「ハイ。それでは何か御用がございましたら何時でもお呼び申し付けください。」


そういい去っていく執事。カーミットは思考に拭ける


「となると、ボースに会うことになるのね。怖いわ少し...あの人言動が怖いもの」


とカーミットはそのまま眠りについたのだった。



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次回予告 陽魔天王 ミリシウス・エルロード

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