Hは好きだけど、Iには繋がらない

「なあ、Hの次ってなんだっけ?」


俺はベッドに半裸で寝転び、頬杖をついて訊いた。


「なに?ヤッたばかりなのに下ネタ?」


全裸の彼女はベッドの縁に腰掛け、俺の額をパシンと叩く。


大学生となり一人暮らしを始めていた俺は、知り合った女の子を部屋に連れ込んでいた。


このショートヘアの子もその一人だ。


名前なんだったかなぁ。


彼女に気づかれないようにスマホに視線を落とし、メッセージアプリを開く。


ああ、ユユか。

まあ、偽名だろうな。


こういう出会いでは距離感が大切だ。

本名なんて名乗らないのが普通だ。

だから、俺も偽名を名乗るし、彼女も偽名だろう。


「なあ、もう一発……」


柄のついたブラのホックを止めようとしている彼女の肩に腕を回し、抱き寄せる。


「ごめんね、バイトがあるの」


そう言うと、彼女はスッと立ち上がった。


「送ってこうか?」

「ううん、大丈夫」


玄関先でブーツを履く彼女を見ながら、俺は頭を搔いた。


「またメッセするよ」

「うん、バイバイ」


彼女はドアを開けると、ヒラヒラと手を振って帰っていった。


「次はなさそうだなぁ」


俺は独り言を呟いて、スマホを操作する。


『今日、遊べる?』


3人程、前に知り合った子にメッセを送る。

まあ、ヤリ足りないのだ。


それから、暫くして一人の既読がついた。

だが、返信が来る事はない。


ブロックされてないだけマシか。

ポジティブに考え、俺は別の子にメッセを送った。



……全滅かよ。


予定がある。

彼氏が出来た。

既読がつかない。


ベッドの上で、俺は溜息を吐いた。


「あいつはあんま声かけたくないけど、しょうがねえか」


付き合いは長いが、話が合わないんだ。


『今からやれる?』

『わかった』


秒で返信がくる。

これが彼女との関係性。


別に、好きとかじゃない。


ただ、セックスがしたいだけだ。

性欲を満たす為に、俺達はお互いの身体を使う。


ピンポーン。


いつものタイミングで鳴るチャイム。

俺は下着を履いて、上着を羽織る。

流石に裸で出迎える勇気はない。


そして、ドアを開けて彼女を迎え入れた。


「早かったな?」

「隣だから」


俺は彼女を抱き締め、キスをする。

柔らかい唇の感触。


「んん」


唾液で濡れた舌が絡み合う。

俺は彼女の服を脱がしていく。


スカート、シャツ、ブラジャー、ショーツ。

全て脱がせた頃には、俺も彼女も準備が出来ていた。


「シャワー浴びてないよ」

「いいよ」


俺は彼女をベッドに押し倒す。

そして……。



「……でね、今度……」

「ああ」


事が終わればいつもの雑談。

ただ賢者タイムの俺は、彼女に興味がなかった。


早く帰ってくれないかな。

そんな事を考えながら、俺は相槌を打つ。


「なあ、Hの次ってなんだっけ?」

「……アイ?」


俺の脈絡のない質問に、彼女は首を傾げる。


「……繋がらないよなぁ」


スマホを操作しながら、俺は溜息を吐くのだった。

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