満月の夜に

今夜も 降り立つ生命たち。


男は

地での誕生の時を見守る。


ふと、

男の足元で うずくまる 球がひとつ。


何かに脅えているような

何かを躊躇っているような


球には、未だ感情がないはず。


だから、迂闊に触れてはいけない。

地に降り初めて染まる形に 混じり気があってはいけないから。


そう 思いながらも、

男は 手を伸ばす。


触れるか 触れないかの ところで、


するり


それまで男の指に絡みついていた 女の残穢が

球の中へと入っていった。


あっ、と。

止める間もなく。


球は 地へと 翔んで行く。


先ほど 感じた戸惑いが

錯覚であるかのように

消え失せて。


迷わずに、

のもとへ。




『会いたかった あの人に……

 会わせてくれて ありがとう

 叶えてくれて ありがとう』




聞こえるはずのない 球の声が

残穢であった 女の声が

男には 聞こえた気がした。


地へ降り立ち

新しい生命となった

産声と

重なって



新しい生命は、の腕に抱かれて

微笑んでいる。









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