宝箱の意味
1―21 裏切ってはならない
女として20年以上も生きていると、人の目に人生経験が表れるものだと理解してくる。大きな決断を乗り越えた人間は迷いのない自信と力をその目に宿しているし、対して感情を抑えて生きてきた人間は無感情で軽薄な目をしているものであった。
近しい人間の機微から重大な変化(特に男関係)を読み取って行動してきた者としての習性が、「この人はまともではない」と告げている。
夫
まるで
ただ、悪気がないのはわかっている。夫はバカで、弱い奴だ。一時の感情で嫌なことから逃げたり、逆に使命感に燃えて周囲を振り回したり……。
こんな時ぐらい、いい加減なことをしてほしくないだけだ。
案の定、
間もなく来訪した両親は、
それから
探偵の言い付けなんかで始める形になってしまったのは内心不服だが、気持ちの問題でずっと手を付けられずにいたのも事実だ。
事実は他人が決めるものではない。過去と向き合い、突き止めるもの。
自分達はようやく、過去と向き合い始めることができた。
「良い切っ掛け」と取るべきなのだろうか?
そんな思考が首をもたげた、その時――
「なあ、
「なに?」
「
夫の質問が疑問を生む。
あのリュックサックが、ない? 記憶を探る――火葬の際、棺には入れていない。その前は……病院に持ち込まれているなら、
「探さなきゃ」急に
思考を中断して彼を見ると、そこには追い詰められたように青ざめた表情が。
「探すって、どこを?」
「公園だ。あと、事故現場とか、交番。
もし、
妻は、夫の鬼気迫る顔からその心境を察知した。そして、理解する。
自分達はこれ以上、
「行こう」
「待って」
しかし呼び止める手は振り払われてしまう。
「電話でもして、わかってもらうよ。それより、早く見つけなきゃ! あれから一週間だぞ、ゴミ箱にでも捨てたんなら、回収されて処分されちゃうかも!」
夫が焦りから冷静さを失っているのは明らかだ。しかし妻は、彼を止める言葉を見つけられなかった。確かに「もしゴミ箱に捨てられていた場合、もう回収されて取り返せないかも知れない」と思ってしまったからだ。
だが、霊感探偵の霊視なるものも
闇雲に動き回ってよいものだろうか? そんな疑問を抱きながらも、「
そして玄関を出た時、
今まさにインターホンを押そうとしていた探偵は、驚いた顔を真顔に戻す。「こんにちは」
「探偵さん!」
何か心変わりがあったらしい。察した妻は、夫が探偵を家に招き入れるのを止めなかった。
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