1―19 受け止める覚悟はあるね?
再び過去――水曜日の夜。
玄関先にメディアが詰め掛ける中、
すると、
「
「甘ったれるな」と怒られることを覚悟で弱音を吐いただけに、息子は反応に窮してしまう。
探偵? 霊感?
意味がわからない。
だが記憶をよみがえらせる言葉もあった。
「私達は、死んだ人の記憶や考えていたことを知ることはできない。けど、その人は遺品や思い出話を通して、死んだ人が何を想っていたのか見ることができるんだよ」
「なんだよ、それ……」
「信じられないだろう。当然さ、普通あり得ないことだからね。
けど、アンタはそんなことを望んでいて、私の知る限り、実現できるのはその人だけだ。
試すかどうか、決めるのはアンタだよ」
ウソや出任せとは思えぬ雰囲気を前に、自分の中にある「常識」という柱が揺らいだ。
うさん臭い名詞には警戒心を抱いてしまう。しかしオカルトめいた人物だとしても、救いのないこの状況では、その霊感探偵にすがる他なかった。
「すがる理由」が、自分にはあった。
しばし考えた末、
「一度、会ってみるよ」
母は思い詰めた面持ちでうなずくと、「続きは、後にしよう」と言い残してリビングに歩き去った。
その後、
探偵との面談の日の朝。
「あの子の能力は本物だよ。
「どうして、その霊感探偵って人を信じるの?」
直感的に「追求しても無駄だ」とわかった。母は、こちらが求める答えを知っていても教えてくれない人だった。
学校の宿題を教えてくれた例がないように、今も、我が子の進む道を容易く決定づけるはずの事実を秘密にしている。その意図など、息子側には想像もできなかった。
得体の知れない人間をどこまで信じてよいものか疑念は残るものの、今は母に従うことにする。
「行ってきます」
探偵事務所へ向かう道中。
「本当に行くの?」と
彼女とは、もう何日もまともに会話していなかった。息子の死の直前、お互いが近くにいて、それぞれの負い目があるから――話せばその話をしてしまいそうで、相手を責めずにはいられない気がして、会話を避けてきた気がする。
霊感探偵なる存在に身を委ねようとする愚かな夫に、何を思っているのだろう。失望だろうか。憤怒だろうか……。
だがそれでも、やるしかなかった。
「付き合わせちゃって、ごめん。でも、どうしても確かめたいんだ」
やる気も責任感も中途半端な自分は、今度こそ最後までやり切らなければならない。そう考えていた。
「これで
今まで、俺……どうしても怖くて、お前とは
息子の死と、世間からの罵声を受けて、ここ数日間、我が身を振り返ってきた。
事故当時だけではない、今までずっと、自分は本当に誇れる男だったのか。どうすれば、天国の
今も尚、答えは出せずにいる。
逃げようとする自分を殺さなければ、きっと答えにはたどり着けない。
だから、何としてでも「罪」と向き合って、ケリを付ける必要があった。
母親に怒鳴られでもすれば、気持ちが楽になるのではとも思っていた。
代わりに提示されたどこまでも怪しく不気味な存在は、だが、
きっと、最後のチャンスだった。
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