34・ロケット

 数時間うとうとしたあと、コハルはナツミに起こされた。

 夏の朝は早く、コハルが起きた時間にはもう太陽がのぼっていて明るくて、南に面したセンセイの家の食卓には、ナツミを除くとやはり眠そうな2人がいた。

 丘の上のセンセイの家から南側はずーっと草原が続いていて、はるか先にはおもちゃのようなロケットと、豆つぶのようなたくさんのタンク車が見えた。

 タンク車はロケットに燃料を入れているらしい。

 あのロケットでドラコは自分たちの世界に帰るんだ、と、センセイは説明した。

 朝日に照らされたロケットは銀とオレンジに塗り分けられていて、まぶしかった。

 このロケット基地も、年に何回か使われるんだよ、飛行場が近いから、ちょっと加工するだけでロケットに使える燃料もあるし、太い電源もあるし、高速道路でさまざまな関連部品も運べる。

 ヒトが多かったころには、こんな町の近くでロケット発射なんて無理だったんだけど。


     *


 ヒトはもう、ずいぶん前から宇宙には行っていない、と、センセイは言った。

 普通に使われている通信衛星や気象衛星は、ヒトが乗るよりもずっと小さなロケットで打ち上げられるし、修理もできるキカイと、そのキカイを修理するキカイもあわせて乗せて飛ばすから、それ以外のヒトやキカイは宇宙に行く必要がないんだ。

 ちょっと管制室と話してみよう、と、センセイは部屋にあった大きなモニターを操作して、たくさんの、どこかタヌキに似たヒト、というよりアヤカシたち、それにキカイが発射を見守っている映像を写した。

 ドラコ、聞こえるかな、と、センセイは言った。

 はい、すべて順調、です、と、やや金属的な声が返ってきた。

 船内を移すモニターには、ドラコというより小さな龍の入っている玉が写っていた。

 時間になると、管制室のモニターの音よりすこし遅れて、センセイの家にいたみんなのところに、大きな発射音がとどき、ロケットは金色の光と灰色の煙をはっきり見せながら、あっという間に消えてしまった。

 公園からセンセイの家までの旅と自由研究、それにドラコと出会ってから別れるまで、実際にはまだ一日も経っていないはずなのに、コハルはさびしい気持ちがした。

 つまりそれは、もうこの夏のこの日は、わたしの記憶と、みんなで撮った画像・音声しか残っておらず、それは実際にオヤと見たのかどうかあやふやな、海や花火大会の記憶と同じく、どんどんあやふやになっていくものなんだろう。

 昼までに帰れるかな、と、アキラは言って、ナツミは、げ、と言い、コハルとミユキは、そんなナツミの肩を片方ずつ、ぽん、ぽん、と叩いた。

 家に帰るまでが自由研究だよ。


     *


 それから4日間、4人は誰かの家に集まって、旅の記録をまとめた。

 あと、ヒトのタマシイ、ということにしておいたきらきらの結晶は、よく見たら近くの公園や路上でも、注意深く観察したら見つかった。

 それとも、見つかるようになった、んだろうか。

 ナツミは、ネットで買い取り屋の買い取り価格などを調べてたりしてたけど、わたしはそんなことより、朝起こしに来るナツミが窓に当てるものが、小石じゃなくてきらきらの結晶になったのが気になったのだった。

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