33・(オマケ)

 国王が大規模な遠征と民族の討伐に遠征しているすきに、妃は民衆と臣下の支持によって新しい女王となった。

 そのときの国王は、かつて王女だった姫をめとって国王になったため、権力欲と支配欲は高かったけれども、かつての姫、今の妃ほど国内に支持者がいたわけではなかったのである。

 白雪を改めミユキとした女王は、塞がれたままだった鏡の間を女王の権限で開け、ひとりその部屋に入った。

 かつてはその100倍の大きさのものであったという鏡は、灰色のおおいにかけられており、しかしミユキの全身を映すには十分な大きさだった。

 おや、久しぶりですお妃様、じゃなくて女王様と、鏡は言った。

 あんたって本当のことしか言わないって本当、とみゆきが鏡に聞いた。

 もちろん、と嘘っぽく言ったので、ミユキは試してみることにした。

 そんじゃあこの国でいちばん美しいヒトは誰。

 鏡は答えた。

 ヒトはそれぞれであり、何が、あるいは誰が美しいかに関してはそのヒトのものの見方によります。

 つまり私にとっては、私の前に写っているあなたがいちばん美しいと答えることは可能です。

 しかし別のヒトは別のヒトに対して美しいというと思います。

 その鏡の言うことを聞くな、そいつは嘘つきた、という声がしたので、ミユキは机の上に置いてあった1枚の手鏡に目をむけた。

 それもまた、大きさは違ったけれど真実を語る鏡であった。

 どうもこの人工知能、つまりキカイは、自己保身の心と、争いを招く心を持っているようだな、と、ミユキは口の中でぶちぶち言った。

 つまり正直に答えてもらっていいんだけど、お前にとっていちばん美しいものは、お前が映している誰か、つまり誰かを映しているお前がいちばん美しいということでいいんだな、と、ミユキは姿見の大きさの鏡に言った。

 まあそういうことになりますかね、と鏡の中の人工知能は口ごもりながら言った。

 数日後、みゆきは家臣に命じてひとりの職工を雇い、姿見の大きさの鏡を100等分して100枚の手鏡を作らせ、ミユキがもっとも信頼していた7人部下、それに戦場にいる、かつて王だったみゆきの連れ、そしてその連れが戦っていた領主に渡した。

 しばらくして、もうこんなことは馬鹿しいからやめよう、というふうに話がまとまったらしく、戦場の王は城に戻ってきたので、みゆきは再びただの妃に戻ることにした。 とにかく決めなければならないことなどが多すぎるので、領主であることにはすぐに飽きてしまっていたのである。

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