5・ミズ

 ひとりで家にいるときはコハルもキカイを相手に将棋もしくはチェスをするんだけど、そのときにはノーマルモードで、キカイは次の手を5つぐらい表示して、その中から選ばせたり、どこからやり直ししますかと途中で聞いてきたりする。

 基本的にヒトがキカイに、このような遊戯では勝てるわけはないのである。


     *


 ちょっと休憩、と言って、ナツミは近くの自動販売機で大きめの水が入ったペットボトルを買い、半分ほどごくごく飲むと、残りの半分を頭からじゃばーっとかけて、ああ気持ちいい、と言い、近くのカマキリ型キカイに、ぽい、と投げた。

 放り投げられたペットボトルはキラキラと太陽を反射しながら、こて、とカマキリの頭部にうまく当たった。

 カマキリの薄い赤色がやや濃い赤色に変化すると、カマキリは両手でペットボトルを持ち、とすごい勢いでナツミのところに近づき、首を、ん、という感じで傾け両手を伸ばした

 カマキリは両手片手で投げ返すことはできないし、キカイは基本的にヒトに害を与えるようにもできていない。

 鼻先に、ペットボトルをはさんだ刃先を3cmぐらいまで近づけられたナツミは、分かったよという感じでしふしぶ受け取り、自動販売機のそばにある容器回収ボックスの方に歩いて行った。

 あ、よかったらついでになんか飲み物買ってきて、とミユキが言い、アキラとコハルもそれに同調した。

 本当に「なんか」でいいんだなとナツミは確認したので、やっぱり麦茶、みかんかぶどうのジュース、炭酸水、と3人は急いで追加訂正した。

 公園のあちこちには短く刈られた青い草が広がっていて、どころどころにカマキリが集めた茶色の草の山がある。

 それらの刈られた草の山はコハルたちの知らない、夜中にひっそり回収されるらしい。

 近くの公園でカマキリを見ることは週に1回あるかないかだけれど、広いほうの公園ではいつも複数のものがぐるぐる回っている。

 草刈りが不要な、春から秋の終わりまでは枯れ葉集めとか草木の手入れとかもしたりしているらしい。

 公園のあちこちには、周囲数メートルの円状にしか水を撒けない散水機もあるんだけど、カマキリは大きいな水道の栓のところにお尻を近づけ、水を口のようなところから、ぶわーっと吐き出して散水する。

 ヒトが誰かいるときには、うまいこと空に虹がかかるように散水してくれる。

 そのようなことをわざわざするのは、キカイにヒトのココロがわかるからなのだろうか、と、コハルは思う。

 キカイにココロがないことは、ヒトは知っているはずだから、虹を作るのはキカイたちの楽しみのためでないことは確かだった。

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