色んなものが、頭に浮かんだ

零二89号

記憶

「はあ、はあ」

 服の後ろびちょびちょだ、最悪。


「春馬君、大丈夫?」

「ぐっ!」


 そういや中学んときはよく制服汚したりして母さん怒らせてたな。


 母さんごめん、せっかく誕生日に買ってくれた服汚しちゃった。


 視界が徐々に暗くなっていく。


 俺はゆっくりと目を閉じた。


 そんな時、昨日母さんと話した事が頭に浮かんだ。


「最近あんたやつれてない?ご飯もあんまり食べないし」

「大丈夫だよ、食欲がないだけだから」


 馬鹿野郎、何母親心配させてんだ。


 今度は親友の草壁との会話が浮かんだ。


「おい大丈夫か?最近授業中にトイレ行く回数増えてるぞ?」

「大丈夫だよ、本当に」


 んなわけあるか、3分の1ぐらいは朝飯とか弁当吐いてたろうが。

 なに噓ついてんだ。


 父さんとの会話が頭に浮かんだ。


「お前ちゃんと食べてるのか?明らかに瘦せすぎてるぞ」

「大丈夫だよ、僕瘦せ型維持したいからこうしてるんだ」


 その後父さんにそんなわけないだろっつて軽く怒られたっけな。


「春馬君、死んじゃった?」

「うっ!」


 吐き気がした。


 そういや昔健太郎が気分悪くて家で吐いちまったことがあったな、懐かしい。


 ピーピー泣いて、泣き止ませるの大変だったぜ本当。


 母さんも健太郎が小さかった頃は目にクマが出来てたし、俺もよく夜泣きで

 起きたっけな。


 健太郎の小学校の通知表を渡された時の記憶が浮かんだ。


「兄ちゃん!見ろよ、算数以外全部80以上だぜ!?」

「へえ、すっげえな。それで算数は?」

「……78点」


「普通にいいじゃねえか!俺なんか59点だぜ!?胸張れよ!」

「でも今の兄ちゃんは常に算数満点じゃん!」

「そりゃま努力で勝ち取ったからな」

「いつか絶対超えてやる!」


「ふ、超えれるものなら超えてみな」


 ごめんな健太郎……兄ちゃん勝ち逃げしちまうわ……


「死んだかな?」

 女の声がする。


 ここ最近ずっと俺を尾けまわしてた女の声だ。


 下駄箱に好きの人の剝がれた爪を入れて、バレンタインに机の上に沢山髪の毛が

 入ったチョコ置いた女の声だ。


「……ね」


 なにも見えない目を開いて、必死に口を開いた。


「し……ね」


「しっかし馬鹿だよねー春馬君も、幾ら助けてって好きな人からメッセージで

 言われたからって警察待たずに一人で来るなんてさあ」


「……」

「まっ、そんな所が好きなんだけどさ」


「ま、いいやこれで私達、ずーっと一緒だね!」

「……」


「あれ?おーい、死んでる?」

「……」


「っぽいなーこれ、まっいいや早く持ち帰ろーっと」


 ◆◇◆◇


「えー次のニュースです、1週間前に路地裏で男子高校生を殺した罪で逮捕された

 被害者の元担任、穂村氏の死亡が刑務所内で確認されました」


「穂村氏は自殺と見られており、一部では呪いと言われています」

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色んなものが、頭に浮かんだ 零二89号 @No-0089

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