/// 7.ボア肉狩りはじめました

昨日、初めて中層へ足を踏み入れたアンジェは朝食を済ませた後で、ギルド併設のショップへ向かう。昨日ラビさんとキャハハウフフしながらその日の出来事を話した後に、今使っている普通のダガーだと少し厳しいというアドバイスを受けたので、ギルド内のショップで買い替えることにした。一級品やオーダーメイドといった物はないけれど、それなりの装備が安く購入できると聞いていた・・・もちろんラビさんと一緒に。いつも通りラビさんの背中の温もりを感じながらショップに入ると、いくつか見繕ったものを見せられた。


ラビさんのおすすめは三つ。まずは今使っているものの上位互換。切れ味が上がって少しだけ大きいが軽い。そして金貨1枚+銀貨5枚、15000エルザとまあまあ安い。次はそれより長いが、長剣までは重くはないロングダガーと呼ばれるもの。切れ味も上がっているが、少し高めで23000エルザ。最後に軽めの長剣。25000エルザだけど切れ味は中々のものということ、だったのだが、手に持って軽く振ってみるとアンジェには少し重くてしっくりは来なかった。


結局、ロングダガーが手になじむこともあって購入を決めた。ラビさんが中層突入記念に、と言われたけどそこまでおんぶにだっこでは申し訳なさ過ぎて死んでしまう。と強く断った。私がこれでいっぱい稼ぐから心配しないでと思っていた。


そんなやり取りがあって今はお昼時。お弁当として持参したサンドイッチを食べながら午前中の道程を思い出す。新しいロングダガーは非常に使いやすく狩りの効率がかなり上がった。昨日は何度も切りつけて倒したオークも、1度か2度、首を切りつけると少しのびた刃先がちゃんとその命を刈り取る程度までは届いたため、かなりのスピードで討伐しつづけることができた。気づけが地下15階まで進み、出現率が高くなってきたワーウルフについても問題なく、というかむしろオークより狩りやすいためかなりの数を討伐していた。やはり素早さCはベテラン冒険者の域。素早さが武器の魔物に対してはそれなりに対応できるレベルになっているのだった。


この調子でもう少し階下に降りればお目当てのワイルドボアも狩れるかなと思っている。でも一つ心配事が・・・やはりこの階に来てからチラホラと他の冒険者パーティと遭遇するのである。他の冒険者の気配を感じたら、なるべく近づかない回り道をして移動したりするのだが、どうしても鉢合わせしてしまうことも度々あって、そのたびに緊張してしまう。さらに言うと、どうしてもボア狩りに早く上がりたいのか無理をするパーティーもいるようで、かなり負傷している者たちも見受けられた。そうした冒険者たちを見つけてしまうと、どうしても横をすり抜けて小回復を無詠唱でかけては逃げるという、ピンポンダッシュならぬ、辻ヒールダッシュをしてしまうアンジェだった。


そんな他の冒険者とは違った悩みで苦悩するアンジェではあったが、昼食を食べ終わるとさらに階下へ進んでいく。そして17階まで下りた時、ついにアンジェは遭遇する。第1ワイルドボア発見!相手は単体、周りに他の冒険者なし、気力体力十分です!とばかりに向かっていると、その相手もいち早くこちらを認識して直線的に向かってくる。すれ違いざまに体をひねって、その突進をかわしながら首筋を縦に切り裂く。次の瞬間、横を走り抜けていったワイルドボアは急に足取りがふらふらとして、そのまま斜めに曲がって岩壁に激突して倒れ込んだ。早速近づいて次元収納に収納することで、無事討伐できたことを確認するのであった。


「これでお肉ゲット!」と内心ウキウキのアンジェではあったが、それから次の獲物をと探索していると、あちらこちらにワイルドボアと冒険者、という組み合わせばかりが目に入ってくる。それからしばらく人目を気にしてグルグルウロウロ。気づけば20階まで下りてきていた。少し歩けばワイルドボア。しかしセットで冒険者パーティもついてくるので、なかなか狩るのは難しかった。


隠密をフル稼働させながらうろうろするアンジェも、たまに冒険者が周りにいないターゲットを発見するとその息の根を止める作業を繰り返していた。気づけば30匹以上のワイルドボアが次元収納に収められている。時間も夕方すぎでそろそろ帰ろうと一気に10階まで戻ってくると帰還用魔方陣を使ってダンジョン入り口まで転移した。


ギルドに戻るとカウンターにラビさんの姿を発見する。昨日同様、勇気を出してラビさんの元に行こうと思っていたのだが・・・今日は人が多い・・・それでもカウンターへ向かうのだが、どんどん恥ずかしさが増してきて顔が赤くなる。


(うーーー、はずかしいよぉーーーー)


気づけばアンジェはカウンターの中にいるラビさんの足に縋り付いていた。


「きゃっ!」


びっくりしたラビは、目線を違和感を感じた下方へ向ける。そして小動物のように震えて縋り付きながら、こちらを涙目でみているアンジェと目があった。


「あっ、アンジェちゃん!戻ってきたのね。あ、大丈夫よ、ちょっとびっくりしちゃっただけだから。気にしちゃだめよぉ。今日は人が多いからね。緊張しちゃうわよね。今日はケガとかしなかった?うん、すごい!そんなたくさん狩ってきたのね!」


アンジェを慰めながら今日の成果きいて褒めるラビさん。そして他のスタッフにカウンターを任せると、アンジェの手を引いて裏の解体所へ向かった。


前回同様、本日の狩りの成果をすべて作業台に出す。オーク48体、ワーウルフ65体、ワオルドボアが32体と大量にある。次元収納持ちの冒険者はいることはいるが、そこまで多くはない。だから大体が容量制限ありの収納鞄などを使っているのだが、やはり制限があるためその場である程度は解体して持ち込むことがほとんどだ。そのため、アンジェのような次元収納持ちが大量の魔物を狩ってくると、解体所はもう大賑わいになる。


普段は捨てている部分も使えそうなら残らず回収といったことで、中々に大変な作業になるのだが、結局それは自分たちの給与に跳ね返ってくるのだから嬉しい悲鳴である。よってアンジェは解体所でも大歓迎を受ける。・・・が当の本人はそれを喜ばずにラビさんの後ろに隠れるのだ。そして今回の報酬のうち、ワイルドボアのお肉だけは10体分ほど確保してほしいとお願いする。もちろんラビさん経由でだ。


「ラビさんとお休みにこれで焼肉パーティをしたい」


小声で告げられたアンジェのお願いに、ラビさんは大喜びで鼻息を荒くして丁寧に解体することを強く伝えていた。ちょっと圧が強いお願いに、解体スタッフたちは苦笑いをしていたが、今後の円滑な職場環境を保つには頑張らざる得ないと思うスタッフたちだった。


こうしてアンジェはワイルドボアのお肉10体分と、金貨6枚をゲットしてホクホク顔のラビさんと夜食を買って部屋に戻った。実はラビさんのお仕事はもうとっくに終わっていた。ではなぜカウンターに?まあ、帰りの遅いアンジェを待っていたというのは言うまでもないだろう。


次の日はラビさんもお休みということなので、さっそく街に出てショッピングデートからの焼肉パーティ―をしようと盛り上がっている二人であった。ちなみにステータスは少しだけだが伸びていたのでもっといっぱい狩ってこなきゃと意気込むアンジェ。二人仲良くでお風呂に入り、狭いベットで抱き合いながら眠りにつくのでした。



◇◆◇ ステータス ◇◆◇

アンジェリカ 14才

レベル2 / 力 D / 体 S / 速 B / 知 C / 魔 F / 運 S

ジョブ 聖女

パッシブスキル 肉体強化 危険察知

アクティブスキル 隠密 次元収納 小回復

装備 ロングダガー 銀の軽鎧 罠感知の指輪

加護 女神ウィローズの加護



◆ギルドの食堂


「いや、本当だよ!ワーウルフを狩ってたら結構噛みつかれてて、ケガしてたんだけど急に何かの気配を感じた方が光ったと思ったら、傷が全部治ってたんだ!」


食堂でカツレツにフォークを突き刺しながら、剣士ヨハンは力説する。


「それと同じようなこと、私もあった。今日、後ろに流れてきたオークの攻撃の巻き添えになっちゃって、腕が結構血だらけになってたんだけど・・・同じように光を感じて振り向いた時には傷も血の後も消えてたんだよね・・・」


もじもじしならが、弓使いのフィオーレもその体験を告白する。


6人掛けのテーブルで各々(おのおの)がパーティーメンバーに今日起こった不思議な体験を魚にワイワイ騒いでいた。その集団に一人の厳つい男が近づき、そして声をかけてきた。


「話は聞かせてもらった!その時に水色の綺麗な髪の美少女を見なかったかい?」


「そ、そういえば、髪かどうかはわからないけど目の前を水色の何かが横切った気が・・・しないでもない・・・かもしれない・・・」


「わ、私も見たかも・・・はっきりとは見えなかったけど・・・」


その言葉に声をかけた男、ザンガスは鼻で笑い、自分の思いを告げる。


「ふっ・・・ありゃー聖女。聖女様だよ。ソロ冒険者で水色の髪が美しい美少女。それが最近降臨された・・・俺たちの聖女様だ!!!」


そんな厳ついおっさんがロマチな表情をして放つ話に面食らう冒険者たち。


「いだっ!!!」


「すみませーーーん。変な話しちゃって。気にしないでくださいねーー」


「ほんとにもう!そんな変態顔してないで、早く行きますよリーダー!」


「「「「「「・・・・・」」」」」」


こうして、だらしない顔で聖女様!とのたまった暴走戦斧リーダーのザンガスは、仲間のハルとエリ―の二人に引きずられて食堂を後にするのであった・・・



◆神界


「はうっ!何今の素敵チックな斬撃!すごいわアンジェ!あっ!私のアンジェも素早さがBになったのね!さらに動きに鋭敏さが加わってまるで雷鳴のような一撃!!!すごいわ私のアンジェ!!!」


いつものようによだれを垂らしながらだらしない表情をしてアンジェを褒めたたえる変態駄女神は、午前中の過密な業務をやっと終了し、下界の様子を見始めたところでワイルドボアへの一閃を堪能したのである。


今日はもう仕事はない・・・ということで延々続く艶っぽい独り言がつづく。


それが最高潮に達したのはもちろん、アンジェとラビのキャハハウフフなお風呂での洗いっこタイムであった。鼻息が荒く心拍数がかなり上昇していると思われるこの女神の健康状態が非常に心配である。まあ神は死なないから心配無用なのだが。しかし心配であるほどのその顔つきは、少なくとも部下の従者たちには見せられない醜態であることは事実だ。がんばれ女神!負けるな女神!その威厳が木っ端みじんに砕け散るその時までは!!!

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