第23話 女王様の気まぐれ



…………

………

……


『こんばんは』


「こんばんは、ホタル。待たせちゃった?」


『いいえ、動画の編集もしてたから』


 家に帰ると、携帯の方に夏樹から友達の家に遊び行ったついでで夜ご飯もご馳走になると連絡があった。


 なので夜ご飯は一人の時用カップ麺で済ませ、洗濯も一通りして風呂に入る。


 その後はいつも通りR2Oを起動しようとしたところで、今日の復習を思い出したため、ログインするのにいつもより少し遅れた。


「さて、今回は何をしよあばばばばば」


 ベッドから起き上がると、ヴォルに押し倒され、顔を舐められまくる。そんな上機嫌なヴォルの背中の上には、スイがまるでロデオをしているかのように乗っていた。


『ふふ、また会えて嬉しいみたい』


 ヴォルは落ち着いたのか、尻尾をブンブン振りながら俺のお腹の上にちょこんと座って舌を出している。


「なんか、少しちっちゃくなったな」


『確かに、若干ですが幼くなった印象ですね』


 今日の放課後にテイムした時は今よりももう少しだけ大きかった。前が生後八ヶ月だとしたら今は生後二ヶ月とかの子犬だ。


「そういや体内のマナで大きくなったり小さくなったり出来るんだっけか?」


「わうっ!」


「あは〜、可愛い」


『もふもふでふわふわ……』


 ヴォルの顎を撫でていると、スイが飛び上がり、俺の髪を小さい手で引っ張ってくる。外に何かあると言っているみたいだ。


「外に何かあるのか?」


「フィ!」


 スイに続いて小屋を出ると、ログアウトする前にはなかった木が生えていた。葉の形や、成っている実の色をよく見ると、それは妖精の園にあったものによく似ている。


「え、どうしたのよこれ」


「フィ!」


「え……」


『スイたそ……。す、スイちゃんはなんて言ってるの?』


 今スイたそって言ってなかった? ホタルもちゃんとしたオタクだよな。


「なんか信頼の証としてくれるらしい」


『良かったわね!』


「うん。でも俺何もしてないよ?」


「フィ〜」


「あはは、女王様の気まぐれね。じゃ、ありがたくお受け取りいたします」


 スイは胸を叩いて俺のお辞儀に答えてくれた。スイの小さな体でどうやって持って来たのか、とか色々疑問はあるけど、今は貰ったこれを鑑定してみよう。


【ポピンの木】

 比較的どこでも育ちやすい木。ポピンの実が成る。


【ポピンの実】

 赤く丸いその実は程よい甘さと酸味がクセになる。


『リンゴに似てるわね』


「ね。ちょっと食べてみよっか」


 ポピンの実を一つ木から取り外し、ナイフで切り分ける。皮もそのままで口に入れてみると、シャクっといい音がなり、甘さが口に広がる。


「あま〜い。リンゴと、ちょっと梨っぽさもある」


『私リンゴ好きですよ?』


「え、食べれなくて可哀想」


『ドーンくん……?』


「あぁ、ごめんなさい」


 一瞬で冷たくなったホタルの声音に、俺はすぐさま謝った。こう言うのは速さが大事なんだと、俺は兄貴に習っている。


「わう?」


「ん、ヴォルも食べるか?」


「フィ〜!」


「はいはい、スイもな」


 ナイフで切り分けた残りをヴォルたちにも手渡す。スイには彼女が両手で持てる分をちゃんと渡した。


『美味しそうに食べるのね』


「はは、だな。さてと、どうしよかっな」


 師匠との修行は同好会でやったから今日はもう自由時間だ。小屋をリフォームもしたいし、罠にかかってたウィップパンサーの素材で何か作ってみたいし。


「それにヴォルが増えて回復の重要性が増したしな」


『回復。お師匠さまには【調薬】スキルはおすすめしないと言われてたけど』


 【調薬】スキルは薬草などの素材を、色んな薬に加工する際必要になってくるスキルだ。回復は魔法でも可能だとは思うが、俺の取れるスキルには回復魔法が含まれていなかった。


 多分魔法I IIのどっちか、それか神官やら僧侶やらのNPCに教わる、とかな気がする。これに関しては俺の勘だけどね。


「師匠には回復が不要、つまり怪我を負うような相手には、無理せず勝てるようになるまで逃げの選択肢を取れって言われたからな。

 この森で一人だと、HPが減るって状況自体が危険だからなんだと思うけど、今はヴォルとの二人……」


「フィ!」


『スイちゃんと私も忘れないでください』


「……ごめんって。えと、4人だから回復薬の必要性があると思うんだよね」


『数が増えれば強敵ともきっと戦えるわ』


「うん。それもあるし、俺は死んでもリスポーンするけど、この二人はしないかもしれないってのが怖くてさ」


『あ、そっか……』


 もしかしたらこの子たちもリスポーンするかもしれないけど、それを試せるほど俺は強くない。


 ヴォルとスイが怪我をした時、俺を犠牲にしてでも回復して逃すなんて場面がこの先きっとあると思う。


 師匠はなにも言ってないけど、この森にはまだ俺が見てない危険なモンスターや環境がまだ待ってると、そう感じざるをえない。


「でも肝心の薬草がないんだよね〜」


『この森には無いのかもしれないわね』


 師匠と森を歩いている間、それっぽい草に鑑定をしまくってたのに結果は散々で、テキストの無い雑草がほとんどだった。


「鑑定しても見つからなかったしさ」


 ごろんと地面に寝転がる。お腹の上にはリンゴを食べ終えたヴォルが乗り、その上にスイが乗ってくるが、重さはあまり感じない。


 見上げるとポピンの木から、木漏れ日が差し込まれてくる。葉っぱがゆらゆらと揺れて穏やかな気持ちになって眠くなってきた。


「葉っぱ……」


 ……あれ、そういや果実はもちろん、木も鑑定出来るのに、なんで葉っぱは鑑定出来ないんだ?


 いや違うよ、鑑定出来ないんじゃない、俺がまだしてないんだ。普段やってるゲームじゃ葉っぱなんて調べられないから、完全に意識してなかった。


 もしかして地面に生えてるものだけじゃなくて、潜在的に除外してた木の葉も……


【ポピンの葉】

 ポピンのわずかに甘い香りのする葉。調薬可能。


「う〜わっ……」







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