第8話 師匠の指導




 広場には俺がスタートしたボロ屋よりも数倍綺麗な小屋が建てられており、ゴブリン改め、師匠はそこで暮らしているらしい。鑑定で見た、師匠の【覚醒者】についてはよくわかっていないが、ゲームを進めていけば自ずとわかるだろ。何よりネタバレが怖くて調べに行けない自分がいる。


「まずは武器だ。ここに三種類の剣と三種類の盾を用意した。おぬしならどれを選ぶ」


 師匠の目の前には、大小様々な剣が三種類と、こちらも大小様々な盾が三種類置かれている。


 鑑定してみると、


【玄人の大剣 攻撃力50】

【玄人の剣 攻撃力35】

【玄人のナイフ 攻撃力15】


 とあり盾の方は、


【玄人の大盾 防御力45】

【玄人の盾 防御力25】

【玄人の小盾 防御力10】


 となっている。


 どれを選ぶかと問われればやはり攻撃力と防御力の一番高い大剣と大盾だな。


「大剣と大盾っすね」


『え』


 ん……?


「……なぜそれを選んだ?」


「攻撃力と防御力が一番高いからです」


「ほうほうなるほど、では装備してみろ」


 師匠に促され、装備する。STRにレベルアップ分のLPをぶっぱしてあったおかげで、多少の重さを感じるが楽々と持つことが出来る。


「おお、持てるのか!」


「ええ、鍛えてますんで!」


『よく分からずに全振りしただけです』


 ホタルのツッコミが入り、一人で笑いそうになる。そんな中師匠はナイフを拾った。


「では構えろ。模擬戦闘だ」


「え、師匠はナイフだけですか?」


「ああ、十分だ」


 それと同時に走り込んでくる師匠。一気に間合いを詰められ、ナイフでの先制攻撃を仕掛けられる。


 俺は大盾でそれを真正面からガード。金属同士の鈍い音が鳴り響く。流石は防御力ナンバーワン、全くダメージを受けない。


 師匠の攻撃を全部ガードして、この大剣で攻撃できれば……。


「……あれ?」


「どうした、一番攻撃力の高いその武器で、オレを攻撃してみろ」


 攻撃したくても出来ない。大剣のスキルが無いからとかではなく、大盾での防御でHPこそ削れてないがまったく次の攻撃に繋げられないんだ。


「いいか、この森でおぬしは一人だ。防御も、攻撃も、全て一人でやらなくちゃいかん」


「うわっ!?」


 ジリジリと追いやられていたのか、木の根っこに足を取られ、仰向けに倒れてしまう。その隙を師匠は逃してくれるはずもなく、ナイフを首筋に当てられた。


「オレが使ったのは攻撃力の一番低いナイフだぜ?」


「……正解はナイフって事ですか?」


『違うと思いますよ……』


「へっへっへ…、教え甲斐があるなぁ。ほら立て、次だ」


「は、はい!」


 てか俺の師匠めっちゃかっけぇ!!


…………

………

……


「つまり、バランスが大事って事ですか?」


「ああ。この中で選ぶとしたら、真ん中の剣と盾だ」


 そう言って師匠は【玄人の剣】と【玄人の盾】を指差した。それを手に持つと、大剣や大盾と比べてとても軽く感じられる。


「大盾は防御力こそあれど汎用性に欠ける。攻撃を受ける事に特化しとるからな。確かにパーティを組んでタンク役が持つ分にはパーフェクトだが、ここではおぬし一人。受けに回ってみろ、さっきみたいに待ってるのは限りなく近い死の未来だけだ」


 その言葉を聞いて唾を飲み込む。これがゲームだと分かっていても、やはり死という言葉には緊張感がともなう。


「小盾は論外だ。防御力が低い。この森でこれを持つくらいなら片手は空けておけ」


「はい!」


「そして大剣は攻撃力が高いがそのぶんデカい。ここみたく開けっぴろげなら良いが、森の中や洞窟ではまず使えん。あと腕力が必要だな。おぬしは平気だったがな」


「まあ、鍛えてるんで…」


『ですから全振りしただけです』


 ホタルさんの二度目のツッコミに思わずニヤケてしまった。


「何を笑ってる」


「何でも無いです!」


「ふむ……。でだ、残るのが剣とナイフだが、ナイフは間合いが近すぎる。この森では逃げの選択肢も残さないと生き残れないから除外。剣ならば十分なリーチと攻撃力を兼ね備えている。おぬしの隠密での不意打ちでなら、それなりのダメージも狙えるだろ」


「なるほど。では剣のスキルを取りますね」


「取れるなら剣とナイフ両方取っとけ。解体やら加工やらに役立つだろ」


 師匠の勧めで剣とナイフのスキルを獲得する。ナイフのスキルは【短剣】スキルの一部みたいだ。


 これで残りのSPが25。まだまだ余裕があるな。


「…暗くなって来たな、オレはこれから明日の朝まで森に入る。おぬしはどうする」


 じゃあログアウトしようかな。良い時間だし。


「俺は休みます。また明日ここに向かいますね」


「ああそうしろ」


 師匠はそう言って小屋の中に入り、すぐに森へと走って行ってしまった。


『すごく充実してましたね』


「ですね。ホタルさんだったら剣と盾何選んでました?」


『えっと……うーん、私もドーンさんと同じの選んでましたよ』


 あ、気を遣ってもらってるなこれ。ホタルさんも師匠に言われた事気づいてたのか。


「じゃあ僕は落ちますね!」


『セーフゾーン忘れてませんよね?』


「あっぶね…」


 またホタルさんに助けられてしまった。









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