第34話 真夜中の罪


 やらかしてしまったものは仕方がない。もう、手の施しようはないんです。女 山科、腹をくくります。


「グラン、ウォルフ。ちょっと外出てて。私着替える」

「え」

「着替え…一人で大丈夫か?」

「どういう意味だ、あ?私が一人で着替えらんないように見えんのか?」

「すまない。気を悪くさせてしまったな。つい、カエデは幼く見えるから。どうしてもな」

「ならいい」


 私も私が私であることを時々忘れるから…なんか、モラトリアム拗らせた思春期の青少年みたいなこと言ってるけど。まぁ、分からなくもないから許すとして、着替えの為に2人を部屋の外へ追い出した。

 着替えを終えて、鏡がないから着心地見るだけだけど、違和感ないからこれで良しとする。一応ジャケットにも袖を通し、着心地と見下ろした服のバランスをチェックしたらすぐ仕舞う。デザイン的には我ながらいい感じに出来た。ジャケットは防具だから街出てから着よう。

 あ、もちろん付与魔法は付けた。じゃないとお姉ちゃんの服を着ようとして頑張って背伸びした小学校1年生になってしまう。13歳差の姉なんていないけど。


「いいよ」


 入出許可に入って来た2人は、私を見て目を丸くした。


「スカートじゃないのか?」

「ズボン着んのか?」


 アリアさんはズボン着てたから、女性スカート文化でもないだろうけど、街中で見かけた女の人はそう言えばスカートオンリーだったなと思い出す。


「旅するんじゃ邪魔だからね。街中で暮らすわけでもないし。それに私スカート嫌い」


 スースーするから。やっと久しぶりに落ち着く。因みに私が今まで着ていたのは、ドロワーみたいなパンツとワンピースとは聞こえのいいシャツ?に腰ベルト的紐で上下を締める感じだった。

 どこか残念そうな男性陣を無視し、変じゃないか尋ねる。


「ん~かっこいいと思うぜ?でも…」

「そうだな。とても似合っているし、カエデは可愛い。だが・・・」

「分かってる。時代があってないんでしょ」


 言葉を濁す2人の言いたいことは、私もよく分かる。自覚している。私が自覚あったことにホッとした2人には悪いが、私より時代の先を行くことになるヒトは別にいる。


「街中では認識阻害で移動するし、ちょっと外套を買って行こう。服が見えないように。それから、これ実は上に防具になる服着るんだけど、それがもっとあれだから。あれなんだよね」

「何だよ、あれって。何やったんだよ?」


 ウォルフが私の言葉の濁しように不安を覚えたのか突っ込むけど、私の口からは説明できない。私はそっと、2人に畳んだ服の山を指さす。


「そっちがグラン、こっちがウォルフ。多分着てみればわかる。着方が分からないなら、取り敢えず後でね」

「おい、着てみればってなんだよ!?」

「カエデ、着替えるが。外で一人は危険だ。ここで」

「グランの変態。心配しすぎだし。さっさと着ろ」


 喚くウォルフから顔を逸らして、私は足早にドアの外へ出る。そして安定のグランは、グランだから気にしない。


「着替え終わったら、ノックして」


 2人は耳がいいから聞こえるだろう。

 暫くして、ノックが聞こえた。そっと開けたドアから半身だけ入れ中を覗く。…うん。あれだな。ウォルフ、大分人外に顔のいい男が傍にいるからそう思わなかったけど。君も将来有望だね。9歳だけど、CM出て荒稼ぎできる顔してんね。将来、うちわ持った女子で武道館埋められる顔してたんだね。雑誌撮影現場に間違って入ったパンピー(死語)の気分。あれだね、何かストーカーとか追っかけに間違われて、とても遺憾ですって言いたくなる。私この2人の傍にいたくない。私もしこの2人と学校同じだったら、視界にも入らないレベルにお近づきになりたくないタイプだわ。

 私は再び扉を閉じた。心の扉を。


「おい、どこ行こうとしてんだよ」

「カエデ、1人で行動は絶対にするな。着替えの為に外に出すのも気が気じゃなかったんだからな」


 秒で中から開いたドアに、お小言多い系保護者達に捕獲された。


「……似合ってるね。凄く」


 何でか、認めるのが癪だ。私が作った服が、似合っている。それは喜ばしいことではないか。喜ばしいことのはずなのに、何でか人生勝ち組の2人にそれを認めるのは癪だった。まぁ、世界はそう甘くないから、実際は結構負け負けだけどな、この2人。世知辛い世界だよ、ホント。


「そ、そうか?」

「そう言ってもらえると嬉しい」


 その途端、2人が嬉しそうなのは伝わって来た。まぁ、新しい服はテンション上がるけどね。でもさ、いいの?本当にそれでいいの?2人。似合ってるよ、文句なく。私カスタム、趣味そんな悪くないかなって思ってる。でもさ、タイムトリップした近代人って感じがさ。ドット絵の世界に、PS世代の髭のおじさんが出張って来たみたいな違和感がさ。あれ、鏡がないからか?自分の姿見えてないからか?でもお互いの姿見えてるよね?


「あ、のさ。違和感は感じない?」

「あるに決まってるだろ」

「まぁ、初めて見るタイプの服装だからな。だが、何よりもカエデが用意してくれたものだ。文句などある訳がないだろ。大切にする」


 正直なウォルフ少年と大人なグラン変態。あ、間違った先輩。思うことはあるにはあるらしいが、まぁ服だしな。念願のまともな服だからね。納得してくれたらしい。でも一応言わせては貰う。


「そか。うん…。ゴメン。遊び過ぎた。いや、夜中のテンションがさ。でも、服装としてはマジ文句なく似合ってるから。時代背景にマッチしてないんであって、私的近代感覚から言わせてもらうとホント、マジ似合ってるよ」


 私の必死の言い訳に、ウォルフのデコピンが飛ぶ。


「かっけぇって思ってんよ、ちゃんと。でも、これ街では悪目立ちするってだけ」


 ごもっともです。


「だから、さっき言った通り、上は脱いでね。多分そしたら、そう違和感はない。生地が上等だけど、あくまで庶民の生地屋で買ったもんだし。あと、私とウォルフは外套買おう。外套は、私が手掛けない方がいい」

「だな」

「分かった」

「後、その上着ただの服じゃなくて鎧だから。街出るときは必ず着用すること」

「…は?これ鎧なのか?」

「ん?鎧?」


 2人が揃って首を傾げるが、まぁそりゃそうだろう。昨日ヴァンガードさんに見せてもらった鎧系は、アーマーとか楔帷子とか革でも『鎧』って言う感じの鎧だったから。森の中で会った3人が着てたのも、ちゃんと鎧と見える鎧だった。が、私のは小洒落た上着にしか見えない。


「一応ね。ウォルフのは黒いのがメインにブラックサーペントの革使った物理耐性(+200)と闇・火・土魔法無効付き、赤いのはファイアホーンディアの革使った物理耐性(+110)と火属性魔法無効、全属性魔法耐性付き、ブラウンのはフォレストウルフの革使った物理耐性(+90)と木属性魔法無効、水属性魔法耐性付き。あと、付与魔法色々試してたらLv上がったから、2つ付けれるようになって全部に自動調整と俊敏性up。グランは」

「待て待て待て。カエデ、待ってくれ」


 説明の途中で遮るグランが怖い顔で肩を掴む。ウォルフも今着てる服を見下ろし、少し顔色が悪い。


「この、一見服にしか見えないこれは、鎧なのか?」

「まぁそうだね」

「すべてに、物理だけでなく何らかの属性魔法無効や耐性、そしてカエデの付与魔法まで付いた複合魔法特性があると」

「出来上がったのを見る感じ」

「…………とにかく、カエデの言う通りこの鎧は街を出るまで秘匿しよう。悪いが、カエデのアイテムボックス…アーカイブに入れておいてくれ」

「ん」

「それから、分かっているとは思うが、このことはくれぐれも」

「誰にも言わない」

「そうだな」


 グランは落ち着けるように大きく息を吐くと、仕方なさそうな笑みを浮かべて頭を撫でてきた。


「我が主が規格外だとは分かっていたはずなんだが。まだまだ認識が甘かった。心して仕えよう」

「俺、これ着てていいのかな?」

「元々、うちじゃ属性付与の防具はウォルフが一番必要だから。グランは正直、近接でもまずダメージを食らうことはないから防具要らずだし。ケガするのは仕方ないけど、死なないようにね」

「おう。なら、大事に使う」


 もうこの話は終わろうと、私たちは10時の鐘が鳴る前に出発したのだった。

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