第20話 要求

 正月におばあちゃん家に泊りに行くと、親戚の従兄弟たちとする恒例ゲームがあった。それは、ファミコン。そう、昭和から平成初期に一大ブームを巻き起こした?、レトロな画質のあれ。髭のおじさんに中年にあるまじき身体酷使を強い、どんだけ石頭だよと感心するレベルで頭を強打しレンガを破壊させながら、一国の王族の警備甘すぎだろと思わんばかりの頻度で攫われるお姫様を助けに行く国民的ゲームとか好きだった。で、何が言いたいかって言うと、近くで見た冒険者の人たちの姿に、あれを思い出した。そう、これも未だ続く名シリーズ、ドラゴンなクエスト。あの、昔懐かしい感じを思い出させる、何か知らないノスタルジックな感じ。平成生まれだけど。年代微塵も掠ってないけど。なんかこう・・・ザ・冒険者って感じだった。初遭遇冒険者組はそうでもなかったけど、文化圏の問題か?雰囲気の問題か?あっちはなんか、恰好より中身の雰囲気が乙女ゲーム系統だったからなぁ。服の印象があんまない。こっちは、ゴッツいおっちゃんと厳つい獣人の兄ちゃんとインテリさんなフツメンとセクスィーなケモ耳の姐さんと清楚系お嬢ちゃんって組み合わせ。冒険者RPGのレギュラーパーティーみたいな。

 警戒しながらも、さっきの巻き込み事故でもう気力尽きたんだろうなって思われる5人は、よろよろと立ち上がる。

 私は私で、グランが飛び降り心中なんて図りやがるから、鳩尾がヒュッてなった。ヒュッて。あのダンジョンの入り口くらいの高さでもヒヤリとしたけど。高さ500mのヒモなしバンジーはねぇ。着地した直後に頭突きで抗議したけど、グランが髭のおじさんの跡を継げる素質があったせいで私のHPが減らされた。ワンコ(ウォルフ)もまだペソッとなってるし。


「助かったぜ。えれぇ強いみてぇだが、あんた何者だ?」


 リーダーらしいゴッツいおっちゃんの誰何を無視して、グランは我が道を進む。


「詮索はするな。それが条件の一つだったはずだ。契約魔術により約束を果たしてもらう」

「待ってください。一つだけ、こちらからも条件が」

「駄目だ。此処で死ぬはずだったお前たちにこちらに要求する権利はない」


 メガネのインテリ君が割って入ったけど、グランはきっぱりスッパリ却下する。強いな。


「一つだけよ。犯罪には、手を貸せない。例え、この場で殺されようとよ」


 セクスィー姐さんも負けてねぇ。なんか、こっちの世界の人欧米だよな。譲り合いと謙虚の心な日本人とは大違いだよな。私はほら、ヤマトナデシコだし、繊細だから。こういう時は、そっと見守るに限る。空気になれ。大気に溶けろ。自然は私のお友達だ。


「……そんなことを頼む予定はない」

「あ、あの。せめて先に、どんな要求なのかと、何件あるのか聞いてもいいでしょうか」


 清楚系お嬢ちゃん、食い下がるな。凄いぞ。偉いぞ。のべつまくなし要求され続けたら、いい集りの鴨になるもんね。正しい対応だ。と、ここで会話が途切れた。

 他人事としてお腹空いてきた私は、ふと気付く。上から降って来る視線と、その視線を追って注がれる皆の視線。


「何?」

「要求内容と件数が知りたいそうだ」

「え…そうだなぁ。秘匿義務は当然として…じゃぁ……一つかな。服をくれ」

「「「「「服?」」」」」


 大人なグランがこっちの代表だと思っていた冒険者たちは、私にお伺いを立てたグランにも、私の言っていることにも意味が分からずに眉を寄せた。


「そう。服。予備くらい持ってるでしょ?そこの2人どっちかのサイズなら、辛うじていけるはずだ」

「・・・えっと、お嬢ちゃんの言ってる服ってのは、防具とかそういうのか?」

「いや。その下に着てるような服の、予備。今着てるの渡されても困るよ?」


 朝から服探しをしているけど、よく考えたら鎧の下に着る服なんて普通の布に決まってる。金のかかる付与魔法かける物好きなんている訳なかった。今までの骸骨さんたちだって、纏ってらっしゃったのは布らしき襤褸。獣に食い千切られ、雨風で劣化して、私の万能保管庫を以てしてゴミにしかならない端切れ。ウォルフの上の服は最初で最後に発見した荷馬車の中にあったから無事だったのであって、ある意味ラッキーだったんだろう。

 私の付与魔法まだLvが低いせいか一旦着用しないとサイズが合わない。だから、袖も通せないものに付与が働かない。目の前の男たちの持ってるであろう普段着的なものを頂戴しようと私は指をさす。グランの方がまだ大柄ではあるけど筋肉ムキムキっていう感じではないから、袖は何とか通りそうだった。


「こりゃ、普通の布だぜ?」

「見りゃ分かる。そして、見りゃ分かんでしょ?私の連れは、マントとブーツと獲物(剣)に対して、服が合ってないんだよ」

「そりゃ、そうだけどよ。そもそもなんで」

「一つでいいのか?他も要求できるが」


 続きそうな会話をぶった切って、グランが私に確認を入れる。


「いや。特にそれ以外、この人たちに用はない」

「分かった。では、闇魔法を行使する」


 こうして私たちは、渓谷内で見聞きした私たちの情報を一切他人に伝えないこと、私たちの詮索をしないこと、そして予備の服をセットで一着貰うことを報酬として要求したのだった。

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