第7話 テロ

 へらっと笑った私に、ご尊顔麗しい麗人は数秒の沈黙を守って口を開いた。


「各機能に異常ありません。貴女様が解呪してくださったのですか?」

「多分、結果的にそうなっちゃうのかな?」

「命を救っていただき、誠にありがとうございました」


 かすれた呻き声ではなく、響いた低音は日本なら“中の人”としてがっぽがっぽ稼げそうな美声でございました。CDを出すことをお勧めしたいくらいの美声によだれが・・・。

 私はすかさずよだれを拭い、確信する。これは暴動を起こせる代物だと。顔良し、声良し、これで地位やなんかもあればそりゃリア充爆発しろってなった人間の気持も分かる。駆逐するほど恐れるのも分かるよ。

 と心の片隅で納得しながらも、冷静な私は彼の礼に苦笑を漏らさずにはいられなかった。


「ごめん。余計なことしちゃって」


 変わらない表情からその気持ちは読めなかったけど、アメジストの目が僅かに揺らいだ。


「いえ。感謝しております」


 大人な答えに私もそれ以上の言及はやめ、そっと頭を下ろそうとした時、美形に目が慣れ平静を取り戻した私は衝撃を受けた。


――なに、この触り心地!!


「驚くほどの指通り」を謳う某シャンプー&コンディショナーのCM顔負けの髪触りに心奪われ、更なる誘惑に負けてそのキューティクルなサラサラ絹糸ヘアーを撫でる。

 だらしなく口元を緩めながら堪能していると、私の成すがままになっていた青年が口を開いた。


「グラディオスと申します」

「ふぉっ?」


 不意に聞こえた声に我に返り、私は言われた言葉の意味を咀嚼する。


「グラディオス・・・さん?」

「はい」


 そう名前を復誦すれば、初めて表情がそれと分かるほど一変した・・・と感じた。実際は、ちょっと口角が上がって、目が細くなっただけだけど、無表情が笑うと雰囲気もがらりと変わる。これが、ギャップ萌え!!

そのキラキラエフェクト100倍アタックに、私は抱えていた頭を取り落とし、太陽を見てしまった網膜をかばうように片手で目を覆った。


「ふうおぉぉぉぉぉ」


 一応牢屋で、さっきの男が戻ってこないとも限らないことをギリギリで意識し、小声で悶えた。

 痛みなんてものではなく、羞恥とも違い、何か叫ばずにはいられない変な衝動に、私は床に突っ伏しタシタシとその床を拳で叩く。そして思ったことは一つ。


――バイオハザァァァド!


 バイオテロの恐ろしさ、此処に極まりだった。

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