第2話 ラパンステーキ

 どうも、こんにちは。山科楓 19歳です。

 あと一年足らずで成人だぁ。めんどくさいな。なんて考えが私にもありました。

 子供になりたい、生涯の子供(ニート)に。なんて罰当たりなことを考えていた私への天罰か、この度目出度く、6歳程度の子供に戻りました。うわぁーい〔棒読み〕。


「現実を見つめないのは、現実的ではない。駄菓子菓子、非現実を見つめるのは、建設的とは言えても、果たして現実的と言えるのだろうか。by. 山科楓」


 哲学者風にかっこよく決めてはみても、現状は変わらない。世知辛い世の中だね。

 清涼な新緑の風が、髪をくすぐる。緑が、目に染みるぜ。


「まずは、状況を整理してみよう」


事象1・目が覚めたら、コンクリートジャングルならぬ、見知らぬジャングルだった。

事象2・何かいた。


 因みに、脳震盪を起こしたらしい私が二度目に起きた時には既に、目の前にあった何かは巨大な骨になっていた。不幸中の幸いか、寄ってきた肉食動物は、寝ている子羊(私)ではなく、出来上がっているポークステーキに群がってくれたらしい。生肉ではなくとも、奴らの嗅覚を刺激できた自分、グッジョブ!


事象3・なんか出た(主に私から)。

事象4・痛みがある上、目覚めても目覚めてくれないことから・・・夢であってほしい!!(強い願望)

事象5・なんか小さい(私の身体的サイズが)


 え?3サイズ?そんなもの元からない。念のために言わせてもらうと、男にもなってない。


検証結果:お腹が減ったから食料を調達すべし。


ぐぅぅぅぅぅ。


 まずは目の前の現実(自己欲求)が、最大の事実だ。


「よし。まずは水か。まぁ、こういうのはテンプレで、《ウォーター》とか」


ザバァァァァァ


 局地的集中豪雨に見舞われた。

 前髪から毀れる滴を払い、悟る。口は禍の門だと。


――OK,OK。つまり、ここには魔法がある。そして、イメージが大事と。適当な感じでやっちゃうと、今みたいなことになるか。


 なんとなく勘で掴むと、まず私が成すべき事の為に目を閉じる。


「《探索(サーチ)》」


 閉じられた世界に、気配が浮かんでくる。


――一番美味しそうなの肉は・・・アレだ!!


 食に関する探索で、私の右に出る者はいない。一番近場で、一番美味しそうなオーラをした点に狙いを定める。

 あっちか。


 歩くこと10分。動いていた獲物になんとか近づき、息を殺す。


――あれは・・・ホーンラビットかな?


 ゲームで見るような感じの、角のあるウサギを木陰から観察する。

 ゆうに1.3メートルはあるモフモフに、ちょっと胸キュンを覚えた。


――まぁ、何はともあれ狩りだけど・・・しょせん夢だし?ご都合主義って感じでいえば・・・。


「《審眼(ジャッジアイ)》」


――なーんて、ベタな展開・・・・あんのね。


 小声でほぼ声に出さず呟けば、やはり夢的小説展開が起こった。


■ホーンラビット Lv.F HP56 MP40

 攻撃:風切(ウィンドカッター) Lv.5

 スキル:ジャンプ Lv.10  頭突き Lv.9  蹴り Lv.6


――やばい。よだれ出てきた。


 色々疑問に思うべきところをすっ飛ばし、今(飢餓状態MAX)の私には肉以外の問題など存在していなかった。

 と、草を食んでいたホーンラビットが上体を起こし、耳を動かす。

 獲物まで5メートル。木々が邪魔をして、すぐには追いつけない距離にはある。

 でも、絶対に仕留めてみせる。だって、お腹が空いたから。イメージは中国戦国ゲーム。あの壮大な3Dの臨場感でよく見る、降りしきる矢の雨。


ザァァァザザザザザッ


「キュィィィィィ」


「やっべ、やりすぎた」


 断末魔が木魂して、音が途絶えた。動きがないことを確認し獲物を回収に向かうと、其処に無数の氷の矢で貫かれて絶命したホーンラビットが一匹。私はその余りにも徹底的過ぎたイメージ通りの魔法の威力に無言で反省し、静かに手を合わせる。


「許せ。マジごめん。やりすぎた、反省する。でも、ありがたく頂くから」


――コントロール覚えるまでは迂闊に人に攻撃魔法は辞めとこう。


 暫し冥福を祈り、人への攻撃魔法の使用は控えることを決めた。


「ナイフ欲しいなぁ」


 いざ肉の原型を前につぶやいた私の目の前に、透明の球体が現れ空中にダガーナイフを出現させた。


「便利だ。現代科学何て目じゃないね」


 手に取ったナイフの刃をしげしげと見つめ、感心する。

 実習で解体の授業があって、小学生の頃祖父母の田舎でウサギ狩りもして慣れていたから、ナイフで覚えている通り血抜きに取り掛かる。

 今の自分とほぼ変わらない全長の獲物を吊し上げるのに四苦八苦・・すると思ったけど、魔法って便利だ。風魔法で浮かせて、近くに自生していた蔓に括りつけて処理する。


――こういうの、ゲームで言ったらどっか素材あるよねぇ。やっぱ毛皮と角と・・・・ん?


 腹をさばいたあたりで、骨とは違う固い何かの手ごたえを感じ、手を突っ込む。


「ん~?石?宝石?・・・まぁ、お金の匂いがする。取っておこう」


 捌き終え臓腑を取り出した場所から離れた木にラビットを吊るしたところで、考える。


「さっきのステーキの二の舞にしないためには、シールド的なん張らないとか。その間に『ステータス』」


 呟くと、イメージとしてSFに出てくるメガネレンズやコンタクト型の未来型ディスプレイに似ているウィンドウが開く。


――何か、スパイになった気分。


タ・タ・タッタ♪


 思わず某スパイ映画のイメージソングを鼻歌しながら、近くの石に腰掛ける。


■カエデ ヤマシナ (6) Lv.2 女 ヒューマン

 HP 5/26  MP ∞  SPEED 6

 ジョブ:チャイルド 

 魔法属性:全属性 『初級魔法 Lv.100』『身体強化魔法 Lv.3』

 スキル:『探索(サーチ) Lv.2』『審眼(ジャッジアイ)Lv.2』『隠密(ステルス) Lv.2』『逃走(エスケープ) Lv.4』『狩猟(ハンティング) Lv.5』『スルー Lv.999』『亜空間倉庫(アイテムボックス)最大』『ユニーク:絶対防御』

 状態:『若返り』『闘神の加護』

 称号:『異世界人』『怠け者』『食道楽』『料理人』『破壊魔候補』『自己至上主義者』

 アイテム:塩100、毛布、回復薬580、ダガーナイフ(鉄)


探索>周囲の動植物を察知できる。魔力量により探索範囲が違い、レベルにより詳細度に差があり。

審眼>物の性質を見極める眼。獲物選定時に開花。

隠密>気配を消し、相手の認識レベルを惑わす。Lv5から複数対象可。Lv10から自身以外の認識レベルに干渉可。

逃走>逃走スキル。ワイルドボアからの逃走時にレベルup

狩猟>狩り能力。元々所持していたスキル。

スルー>自分の興味関心のあること以外への無視力。生まれた時から最高値。

絶対防御>楓個人のユニークスキル。物理・魔法全ての事象から隔絶する結界。


「・・・よし、塩もあるな。えーとこういう時は、『アイテムボックス』」


 【スルー】【自己至上主義者】のスキルと称号は、伊達ではないと言える瞬間だった。


「あ、と、は。ハーブあたりが見つかるといいなぁ。贅沢言えば、一緒に食べられそうな食材が見つかれば御の字ってとこかな。審眼は拾いもんだなぁ、重宝できそ」


 糧を得るためにこうして生きているものを殺める以上、美味しく頂くのがポリシーでもあり、さっそくハーブ探しに取り掛かる。


「ん?こういう場合はサーチか?ジャッジは、目の前にブツがないとダメなのか?」


――ゲームは好きでも、暇つぶし程度しかしてなかったからなぁ。レベルはそこそこ普通だけど、本場の方々とは会話についてけなかったし。


 少し迷って、取り敢えずサーチで捜索を開始した。

 サーチの見え方は、ほんとにサーチレーダーそのものだった。ステータスと同じようなウィンドウの丸い円の中に、光りが点在しているイメージ。


――魔物は・・・赤かな?動いてるし。この緑が草っぽい。ん?青はなんだろ。まぁ、いいや。


 さらに集中すると、光の傍らに文字が現れる。


――まずは、臭み消しと香辛料系の何かがほしいなぁ。


「ん?」


 一瞬鼻を擽った匂いに、歩みを止め匂いのもとを探す。


「あっちかな?」


 微弱なそれに、でも当たりなら嬉しい匂いを探し出した。


「この木?」


 一本の木の地面に屈み、その匂いに当たりをつける。

 じっとその木に集中して見つめれば、ジャッジアイが発動する。

因みにこのスキルは、「あれ?山科じゃん。久しぶり」なんて渋谷で声かけられて、「え?あ~~~~・・・あぁ、久しぶり。え~~、見ない間にイメチェンした?何、今何してんの?」とか話に乗りつつ、こいつ誰だっけ感を隠しながら顔観察して、思い出す小学校時代の同級生的な感じに似ている。

つまりは、もとからある知識みたいに、その名前や性質を徐々に思い出す感覚に似ている。


「やっぱり♪」


■ワイナリー(白) 野生種

 毒なし。葉から”ワイン”を精製する。アルコール度数:80%


「すげぇ、異世界。ワンダホー。ワインの樹液って、どんだけ。しかも、アルコール度数可笑しいって。野生種だから?薄めればつかえそ」


 風切(ウィンドカッター)で葉を落とし、次々とアイテムボックスに詰めながら、笑いが止まらない。

 その後も順調に収穫を得て、バジル〔バジリコ〕とクルミ〔マカラ〕とナツメグ〔ナティーア〕、そして植物性油を含むアロナの葉の他にも食べられそうな植物を採取し、更に襲ってきた鳥も返り討ちにして獲物は上々。ご機嫌で肉の場所へ戻ってきた。


「いい感じの平たい石もあったし、これ洗って石板にしよぉ。凄い私、違和感なくサバイバルできんじゃん」


 周囲に敵影(魔物)がないかチェックし、食材と調理器具(石)を洗いながら、私は一つ気になることがあった。


――この青い点、やっぱ動いてるよね。・・・生き物か。


 サーチの青色が先ほど見た位置とは違っていた。どんなに集中していても名前が浮かばない点がいくつかあり、3つあった青に至っては全て字が浮かばない。


――有体に推測すれば、私の経験値とかLvより上のものは見えないとかかなぁ。生き物だとすると、魔力を持たないか、人間か。


 考えつつも、手際よく手は動く。

 

 火魔法で拾った薪に火をつけ、周囲で見つけた手ごろな丸い石を焚火の周りに置き、足代わりにして石板を置く。

 水を蒸発する程度まで熱した石板にアロナの葉を絞り葉で油を伸ばすと、塩と砕いたマカラ(クルミ)、一つまみのナティーア(ナツメグ)の粉をまぶした肉を乗せる。

 こんがり肉の焼ける匂いが立ち込めれば、薄めたワインを振り掛け火魔法を使い上からも火を着けアルコールを飛ばす。

 葉っぱで作った簡易皿で、あらかじめ用意した油とバジリコを刻んだソースを掛ければ、なかなか美味しそうな”ラパンステーキ”の完成。


 立ち込める匂いも食欲を誘い、極限値の楓の胃を刺激する。


「それじゃ、いただきます」


 一口大に肉を切り分け、枝のお箸で早速実食。


・・・空腹は、最高のスパイスです。


 最初の一口を堪能し、そっから無心で貪った。そうして食べ終わろうかという頃、背後の木から声がかかった。


「あ?ガキ?」


 楓は、第一NPCと遭遇した。

 ▷話しかける

 ▷挨拶する


 振り返った先にいたいかにもヤバそうな雰囲気の山賊っぽい3人組を見上げ・・・私はひとまず食事に戻った。

 見た目で察した――なんか面倒なフラグが立ったことを。そして瞬時に本能(食欲)が警告する――しばらくまともなご飯にありつけないかも?と。

 つまるに、肉ラスト1切れが私の最優先事項となった。

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