第28話

「ダンジョン」監視小屋に戻った時は、暗くなり始めていた

 江崎 零士は、これについても若干驚きがあった

 というのも、あくまで『ダンジョン』内部なのに朝と夜が

 定期的に訪れるからだ

 だが、その朝と夜もこの場所は特殊なようで、本当に外と

 同じ太陽や月が空にあるのだ

 どういう原理なのかは不明だが、それに関して考えるのをやめている

 また、特に夜が訪れている『ダンジョン』内部に彼個人的には、踏み入れたくは

 なかった



 朝と夜では出没するモンスターの種類がは性質が異なっているからだ

「何とか夜になる前に戻ってこれた」

 彼はほっとした声で呟くと、ドローンから送られてくる映像の

 確認作業を開始する

 ちなみに、ドローンにはバッテリーとソーラーパネルが搭載されているため

 夜でも使用できるようになっている。

 送られてきている映像には、開拓移民集団が建設中の拠点が

 映し出されている。

 そこでは開拓移民達が防御柵の作成や防壁の建設等の

 作業をしているようだ

 外敵からの拠点防御の為だろう。

 木材を運び入れ、土台の作りを確認している場面だった

(開拓移民達は相変わらず真面目に仕事をしているな)

 彼はそう思い感心した声を上げるが、その次に映し出された

 光景で感心していた気持ちは吹き飛んだ。



 薄く霧のかかる夜天の下、松明が焚かれている設営中の拠点の周りを

 おぼつかない足取りでよろめく様に集まっている無数の一団がいた

 動きに統一性が感じられずバラけて、練度は高くないようにも見えるし

 統率がとれていないようにも見える

 松明が彼らの姿を照らし出していた

 拠点を囲むように展開している者達は、そのどれもが身体のあちこちを

 ひどく欠損しているように見えた

 少なくとも、負傷という表現は正しくない

 傍目には瀕死の重傷を負った避難民にしか見えないが、欠損している

 部位が多すぎるため治療のしようがないのが見た目でもわかった



 共通点が一つだけあった

 誰もが黒ずんだ血がべったりと付着しており、頭部が欠損している者や

 腕や足が欠けてなくなっているため、少なくとも歩けるような状態では

 無い事だ

「・・・うわぁゾンビの群れか」

 ドローンから送られてくる映像を確認して、彼は身体を小刻みに震わせた

 この『ダンジョン』に赴任(?)してから、ドローンから送られてくる

 映像でゾンビらしきモンスターは何度か確認していた

 それも夜間時間帯内での出没だった

 最初に確認した時は、『夜間は、ハリウッド系のホラー映画定番の

 ゾンビが襲ってくるのか!』と震え上がった

 今までは少数程度しか確認できなかったが、今回は大規模なゾンビ集団が

 開拓移民集団が建設中の拠点へ迫ってきている

 ドローンから送られてくる映像では、開拓移民集団が防御柵越しに

 応戦していた



『火を絶やすな!! 朝まで時間を稼げ!!』

 誰かが必死に叫ぶのが聞こえてきた

 今、映像に映る拠点では凄惨な戦闘が繰り広げられていた

 地獄から聴こえてきそうな怨嗟の孕んだ唸り声と共に、 ゾンビの群れが

 周囲に巡らせて防備を固めている防御柵を乗り越えて襲撃している

 粗末な武装をした開拓移民の男達が、疲労困憊ながらも果敢に

 応戦しているのが見えた

 断続的に放たれる弓矢による攻撃が、ゾンビの群れに突き刺さる

 弓矢はゾンビの頭部に突き刺さっては、崩れる様に倒れていく

 それでも多勢に無勢だが、拠点の男達は粘り強くゾンビ達の進行を

 遅らせている

『弓兵!! 頭を狙え!! 頭ァ!!』

 そんな叫びが聞こえる

『そんな悠長に狙えるかぁ!! 』

 その叫びに、弓を放っている誰かが反論している

 ゾンビの群れは数体ではなく、数百もいるのだからそう悠長には

 構えていられないのだ

『ひでぇ臭いだ!!』

 槍を投擲した男が悪態をつく

 ゾンビ達は、鼻が壊死しかけているためか全く効果が

 ないように見える

『厠よりひでぇ臭いだな! 』

 打撃武器のモーニングスターで、防御柵を破ろうとしているゾンビの

 頭部を殴りつけている男がそう応える

 ゾンビの顔面は陥没し、力無く崩れ落ちるがその間に別の個体が

 防御柵にとりつこうとする

 防柵を破壊するには至ってないようだ

 守備側である開拓移民の男達は疲弊しめてもいる

 防御柵の前には数多のゾンビが散在し、男達の苦悶の声とゾンビの

 唸り声が響く

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