第14話

「何か本当にラノベの様な展開になってんなぁ・・・」

 彼はドローンから送られてくる映像を見終えるとそう呟きつつ、五号

「ダンジョン」監視小屋から外に出る

 ドローンから送られてくる映像で、現状はある程度把握できるが実際に

 視ないと分からないことも多々ある

 小屋で引き籠って観察をして『ダンジョン課』に報告するだけにも行かず、

 渋々外に出た

 周囲を改めて観察すると、青々と生い茂る草や木、それらはあまり

 見たことのない色合いをしており、あえて例えるなら日本で

 よく見かける草原の植物の種類に似ていたが、似ているだけで彼の

 知っている雑草と同じ種類である保障はない



(本当に、俺の所の『放置田ダンジョン』とは違うなぁ。あっちは

 明らかにガチガチのRPGゲームの洞窟っぽかったし・・・

 この『ダンジョン』は本当にガチガチのオープンワールド

 ゲームそのものだな)

 彼はそう思う傍ら、周りの確認をしながら森の中へと

 踏み入っていく

 その先にはドローンから送られてきたある『物』が

 存在している

 茂みの中をかき分けながら進みつつと、少し開けた場所に出た

 そこには目的のモノが在った



(これどう見てもストーンヘンジだよな)

 そこにあったのは、巨大な円形の石柱が幾つか立っている様子だった

 それも現代のような人工的な構造物ではなく、自然発生したとしか思えず、

 土に埋もれている様子もなかった

 しかし、周囲の自然界には少々不釣り合いな建造物の存在は大きいためか、

 遠くからでもよく目立った

(報告はしてあるけど、これも調査しろと?・・・まいったな)

 彼はこれからの対処を考える

 この事については先輩である佐藤 正樹にはしてあるが、『定時報告だけは

 毎日行うように』と言われただけだ

 いや、正確には『それを使って、『ダンジョン』事業で甘い汁を吸っている

 外資企業や日本の保守党官僚相手にアルバイト感覚で金を稼ぐのは

 ほどほどにしとけよ?

 どの大企業にも総会屋や恐喝専門業界紙に備えて、たっぷり

 機密費を用意してあると思え』

 と、言われていた



(この『世界線』の俺が何をしてきたのか、考えるだけ

 無駄な気がしてきた。

 やってたことがゲームやラノベ人物の軽いイタズラレベルじゃなく、バチバチの

 アクション系やスパイ小説系だ)

 彼、江崎 零士は軽く深呼吸すると草むらから出る事にした

 気を取り直して何かないかと周囲を見回して、何かないかと探す

 辺り一帯には石柱以外は森ばかりで、とりあえず手始めに石柱の一つを

 軽く叩いてみる事にした

 材質は固い木であり、周囲の地面が草なのを考慮すると人工物である事は

 間違いなさそうである

 そんなことを思いつつ、軽くノックをする感じで拳でコンコンと叩くが

 何も起こらない



 暫く様子をみてから再び軽くノックするかのように、拳でコンコンと

 叩こうとしてはたっと止める

(あれ? 中央に魔方陣みたいなのが刻んであるけど、これって多分

 よくあるパターンだと何か出てくる展開だよな?

 大丈夫なのかな・・・)

 すると石柱の中央に刻まれている魔法陣が突如輝きだすと同時に

 周囲に風が舞い上がりだした

(まずい!)

 彼がそう思った時には時すでに遅かったのか、黒い禍々しい煙の様な

 物が姿を現した。



 その煙は段々と集まり形を造りあげていく、暫くしてからそこに現れたのは

 不気味に光る赤い眼光を持った西洋鎧姿の騎士だった。

 中世に見られたようなフルプレートメイルではないが、武装は剣と盾も

 装備しており、ただのコスプレ騎士ではなさそうであった。

 西洋風の意匠が施してある漆黒の全身鎧に両手持ち用の剣と盾という

 出で立ちのその騎士は無言で佇んでいる

 そんな光景を見ていた彼だったが、ゴクリと唾を吞み込む動作をすると

 意を決して口を開く

 恐る恐るではあるが相手を刺激しない様に言葉を選びつつ、慎重に

 問いかける事にした 。



「あ、あの~? こ、こんにちは~?(うわぁぁぁ!!緊張しすぎて声が

 裏返ってしまったぁあ!)」

 内心混乱しながらも必死に頭を回転させて話しかけるが、騎士は無言の

 まま微動だにしない

 その事に少し安堵した彼はさらに声をかけることにした。

「き、君って誰かな?一人なのかな?(やっぱ返答はないよな・・・

 当たり前だけど・・・)」

 そんな事を考えつつも彼が相手の様子を窺っていると、騎士は突然、剣を

 振り下ろし彼に斬りかかってきた

 彼は驚きながらも咄嗟に横へ飛び退きながら、闇夜と炎のように

 妖しい輝きを放っている短剣を抜き放つ

 ねじ曲がったぎざ刃は、ギラリと鈍く光を放っており、傷口を壊し

 出血を強いるためにあるのか、それを誇るかのように切っ先は鋭く

 尖っている



 それは、初めて『転移後』に『ダンジョン課』の自分自身のロッカーから

 取り出した武器だ

 初めて見た時も、きちんと手入れされており丁寧に使い込んでいたことが窺えた

 刀身は漆黒に染まっており、鍔部分には紅い宝石のようなものが埋め

 込まれており妖しく煌めいている

 柄の部分にも鞘部分も白銀に輝いており、相変わらず闇夜と炎のように

 妖しい輝きを放っている

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