第5話

 彼はドローンから送られてきた映像を逐一『ダンジョン課』へと

 転送し指示を仰いでいた

 最初は戸惑っていたが、慣れれば何とかなるものらしい

 武装警備隊員側も、特に慌てる様子もなく淡々と仕事をこなしていた

『 こちらも映像を確認したが、五号『ダンジョン』内部は

『オープンワールド型ダンジョン』になっている様だ

 手野グループが管理している一号『ダンジョン』と二号『ダンジョン』も

『オープンワールド型ダンジョン』だが、あそこは地下通路が

 迷路のように入り組んでいるタイプだからな 』

 ダンジョン課の佐藤が通信機の向こう側から、淡々と答えてくる

「・・・」

 彼は余りにも淡々と答えてくる佐藤に、表情を強張らせていた

『それと台風の影響で、『ダンジョン』内のモンスターも活性化しているはずだ

 くれぐれも油断をするなよ? それと定期連絡も忘れるな』

 そう言い放つと通信を切った

 その態度に、彼はただ唖然とするだけだった

(・・・相変わらず意味がさっぱりわからない。台風の影響で活性化って)

 彼はため息をつくと、気を取り直して装備の確認を行う

「ドローンによる索敵及び監視をしつつ、近辺を周回する感じか」

 彼はそう呟きながら、装備を整えた




 まずは装備の確認をした

 手元にあるのは『ネクロマンサー一式装備』を除くと、アイテムポーチ 

 救急セット  レーション(戦闘糧食)×10

 水筒  懐中電灯  方位磁石 サバイバルナイフ の6点だった

 アイテムポーチの中には、様々な種類の回復薬が入っていた

 救急セットには、包帯や絆創膏といったものが入っている

 レーション(戦闘糧食)とは、軍用の携帯食料の事だ

 そして、水筒には水が入っている



「・・・マジか」

 彼は、思わず呟いていた

 見た限りでは簡単な探索装備道具だが、これから未知の

『オープンワールド型ダンジョン』内部に脚を踏み入れて

 調査しなければならないのだ

 それも、たった一人でだ

 その事実に、彼は愕然として項垂れるしかなかった

 しばらくすると、ドローンより新たな報告があった

 それは周辺の地形図を作成している最中に、偶然見つけた洞窟のことだった

「いやいやいや、ダンジョンの中に洞窟があるっておかしいでしょ!」

 彼はツッコミを入れる

 ドローンが撮影していたのは、まるで洞窟の中をそのままくり

 抜いたかのようなトンネルのようなものだった

 ドローンは、その周囲をゆっくりと旋回している



「・・・洞窟の内部まで確認する必要があるのか?」

 彼は嫌そうな貌をしながらも、ドローンに指示をだす

 ドローンは、そのままゆっくりと進んでいく

 その洞窟の入り口は、かなり大きいものだ

 ドローンは慎重に進んでいき、入り口付近で停止させた

 その後、ドローンは洞窟内へと入っていく

 撮影した映像を確認すると、天井には鍾乳石のようなものが

 生えており大きな空間が広がっていた

 薄暗いながらも、その空間は広いという事だけは分かる

 ドローンは、更に奥へ奥へと進み始める

 その映像を確認しつつ、彼はドローンの機体に損傷がないか

 チェックをしていた

 暫く進むと映像に変化が現れた

 薄暗い空間を巨大な影か動いていた


「・・・おいおい」

 映し出されたのは、海綿質の鬣を持った水獣と呼ばれるモンスターだ

 体長3mほどで、その姿は蛇に近いが鱗の代わりの表皮は硬質化している

「ナニコレ」

 映し出されている映像を見て、彼は呆然とした

 どう考えても自分がこれを倒す姿が想像がまったくできない

(・・・こんなデカすぎるモンスターをこの『世界線』の人間は、

 倒しているのか!?)

 映像に釘付けにされている彼は、この『世界線』の自分に対して恐怖の

 ようなものを感じていた

 暫くして、ドローンは洞窟を抜け出した

「・・・こんなデカブツが徘徊する場所で探索とか無理ゲーだろ」

 そう彼は愚痴を零す



 ゴブリンを倒すだけでも、彼はかなりの苦労をしたのだ

 それが、あの海綿質な水獣を倒すのは一体どれだけ苦労するのか

 想像もできない

(・・・さっさと撤退したいが、この無理ゲーな探索が

 この『この世界線』では仕事なんだよなぁ)

 溜息を吐きそうになるのを堪え彼はドローンから送られてくる

 映像を確認しつつ、周辺の地形を再度確認し始めた

 送られてくる周辺地形映像は、ダンジョン内部とは思えないほど

 広大であった

 洞窟の出口付近から半径100m程は草原であり特に変化のない景色で、

 ゴブリンといった小型のモンスターしか確認できなかった

 だが、さらに100m程進むと鬱蒼としたツタ植物に溢れ、ジメジメした

 熱帯雨林を思わせるような景色が広がっていく

 更に、その場所を抜けると湿地帯へと変貌していた 所々に

 湖のような場所があり、そこを移動するだけでも一苦労しそうだった



 樹木は暖かな森などに生えるものではなく、細く縦に長い形状の

 ものでまるで人のように見える

 しかし確かな力強さを感じさせる木が多く、不思議な光景であった

 彼はドローンから送られてくる映像を食い入るように見ていると、

 木々の間を巨大な何かが移動しているのを発見した

 それは濃赤色の鱗で覆われ、巨体を二足で支える爬虫類型モンスターだった

 前傾姿勢で歩行する光景は、それだけでも重厚感溢れる強さを感じさせる

 何より目を引くのは、全長の半分近くを占める程に極めて長く巨大に

 発達した蒼い尻尾だ

 まるで巨大な刀剣のようになっているのだ

 その尻尾の一撃だけで恐らく、車など一瞬にして

 スクラップとなってしまうだろう



(・・・うわぁ)

 彼は、ドローンから映像として送られてきた恐竜に近い特徴を持った

 モンスターの映像を見てドン引きした

 あまりにも自分の常識から外れた光景に、言葉も出ない

 その後も暫くドローンを操作していると、険しい山々へ続くと

 思われる道を発見した

 ドローンの高度を上げると、その道は険しく切り立っていた

 道の横に生えた草木は無造作に伸び放題で、地面に転がっている石などは風化が

 激しく苔まみれになっている

 そんな道をゆっくりと進んでいくと、再び彼が絶句する光景が飛び込んできた

 険しく切り立っている道を強靭な巨躯を誇る隻眼のモンスターが

 上ってきているのだ

(・・・・・・マジかよ、サイクロプスもいるのか)

 彼は思わず絶句した



 RPGゲームなどでは、お馴染みモンスターだが実際に目にすると

 その威圧感は半端なものではない

 まだ距離があるのに、彼の喉はゴクリと音を立てていた

 ドローンから送られてくる映像には、そんなサイクロプスが二体も

 映し出されているのだ

 どうあがいたところで、遭遇しても勝てるわけがないと彼は思った

 幸い、二体のサイクロプスは周囲を警戒することなく真っ直ぐ道を歩いている

 どうやら、ここら一帯が彼らの縄張りのようだ

(・・・こんなデカブツと遭遇する事なんてないよな)

 彼はドローンの映像越しに暫くサイクロプスの様子を観察していたが、再び

 ドローンを操作させ移動を再開した


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