龍皇流メイドの育て方

明日野 望

第1話 龍皇とラン

─ よいかラン。あの龍皇からかの宝玉を必ず取り戻すのだ…… ─

「はい。ラン、がんばります!」

グッと重い背負い袋を肩にかけ直す。

これから立ち入ろうとしてるのは、キラキラしたガラスがきらめく砂の廃都市サンバーク。

廃都市の名の通り、ここにはもう人はいない。

生きているのはたった一体……じゃなくて、一柱の神 龍皇だけ。

「は、はいりまーす……!」

この都市の境界線ははっきりしていて、常に雨が降っているのだ。

境界線を超えた瞬間、雷が真横に落ちたみたいな轟音が響いた。

その後に城を中心にして都市の瓦礫と砂塵が波のように吹き上がったのが見えた。

「ひぇ……!!」

すぐさま壁の陰に飛び込んで伏せる。

頭上を飛び越えていく砂の音、壁にぶつかる瓦礫の音。

心臓がばくばくいって、息が出来ない。

自然の猛威ですら、この荒神の前ではたったの一声に過ぎないんだ。

『そこにいるな』

重苦しい声だ。直接私に話しかけてるわけじゃない。

生き残ってここにいる生命全てに言っている。

ここにいるのは私だけだけど、私だけに言ってるわけじゃない。

私の事なんて見てない。

独り言に近い何かだ。

『立て人間。話を聞いてやろう』

ここで逃げたら宝玉は取り戻せない。

「はい!私はランと言います!

貴方のメイドとして、仕えに参りました!!」

しばらくの沈黙。

瞬く間に黒く煌めく何かが城の尖塔を破壊して飛び出したのが見えた。

その光は、私の前に想像していたよりも小さな形で落ちてきた。

「メイド。生贄の新しい呼び名か?」

それは人の姿だった。

私よりも一回り大きな女性。大人よりは少し若く見える。十六くらい?

この土地では珍しく全身が白くて、目だけが赤い。

「メイドは召し使いのようなものと聞いています!」

「お前も知らないのか?」

「はい……」

「……まぁよい。長らく暇であった。で?どうだこの見た目は」

「美しいと思います……?」

素直な意見だったけど質問の意味がわからなかった。自分で選んだ見た目ではないのかな。

「ふむ。前回喰った女のなりだ。怯えて死なんのであればそれでよいか。来い。連れて行ってやろう」

そう言って龍皇は私の腕をむんずと掴んだ。

「痛い!!痛い痛い痛い!!!」

「あ?この程度か?」

折れそうだった痛みが、スッと和らぐ。

「はぁ……はぁ……!はい、そのくらいです……」

私より細い腕なのに、私の腕が簡単に折れそうな力で掴んでくる……。

腕を捲ると指先から掴まれた部分まで真っ青になっていた。

「……力加減が面倒だ。背中に乗れ」

腕を首に回す。このまま締め上げれば簡単に折れそうな首なのに、まるで鉄に抱きついてるような硬さと冷たさ。

目の前が一瞬で空になった。

そして一瞬で玉座の前にいた。

何が起きたかまるでわからなかった。

「降りろ」

一体何が?背中に乗って飛んで着陸したという事?この一瞬で?

投石器で飛んでもこの速さにはならないのではないかな?

「人間のやり口は知っているぞ。生贄を差し出す代わりに何かを常に要求してくる。要求はなんだ」

私を置いて龍皇は玉座に座る。

宝玉が欲しいなんて話をすればほぼ確実に殺されるだろう。

だから、気づかれる前に盗み出さなければいけない。

「私はただここでメイドになれとだけ言われました」

龍皇は頷いた。

「それか。よかろう。それが望みであれば、オレがお前を立派なメイドにしてやろう」

「……ん?」

こうして、私と龍皇の何かおかしい生活が始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る