300語でコーヒーを飲む人

夢見がち

第1話「あけすけ」

 いつもの店にコーヒーを飲みに行こう。

 最寄り駅の向かいにある小さなコーヒーチェーン。ここは入れ替わり立ち替りの激しいテナントで、この店はその中ではよく持っている方だった。

 八月も後半に差し掛かり、暑さは最後の見せ場と言わんばかりに我々の周りに揺蕩っている。店の自動ドアをくぐると、そんな暑さを門前払いするかの如く、クーラーに冷やされた空気が外へと流れてゆく。私はこの瞬間がとても好きだった。

 自動ドアをくぐってすぐ、レジが私を迎える。そこに立つ若い女性店員が気持ちのいい挨拶を私に飛ばしてくる。

「いらっしゃいませ」

 私は彼女の元気に会釈で返し、メニュー表に目を移す。メニュー表には大手コーヒーチェーンにも負けず劣らずな量の種類の飲み物たちが、ぎっしりと、我を選べと言わんばかりに主張してくる。果たして私はこのメニューに載ったドリンクの内、何種類を把握しているのだろうか。

 私は数秒悩んだふりをして、決まっていたオリジナルコーヒーを注文する。

 オリジナルコーヒーのどの辺りがオリジナルなのかはよくはわからないのだが、おかわり自由という点で私はオリジナルコーヒーを愛飲している。かなりの頻度で来ているので、この女性店員の顔は覚えているし、他の店員であれば「いつもの」というだけでオリジナルコーナーが出てくるのではないかと思うほどだ。

「以上です」

 と、これ以外に頼むものはないことを示す。私自身、接客業に従事していた経験があるが、注文がどこで終わりなのかわからないことがままあり、それは注文を受ける人間にとってかなりのストレスであった。

 私は気の利いたことを言ったことに胸を張るが、店員から帰ってきたのはため息だった。

「オリジナルコーヒーばかり注文しますね。おかわりがタダだからって何度もそれを頼む人がいるからここのテナントは長く続かないんですよ」

 唐突にあけすけな物言いに思わず目を瞬かせてしまった。

「えっと……」

 彼女はそのまま会計を流れるように終わらせて、カップにコーヒーの注がれた物をぶっきらぼうに私の前に突き出した。状況が掴めなかった私はあたふたと辺りを見回すと、閉店のお知らせが掲げられていた。

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