第30話 【死者の日墓地ナイトツアー】


「どお? 行けそう? 大丈夫?」

「だ、だいじょうぶ、だいじょうぶ・う」

つかさはやや、呂律が回らない感じで答えた。

「あれ、つかさ酔っ払ってる? 可愛い。酔っ払ってるなら大丈夫、大丈夫。行こうか。上着、着て」

私たちは、なんとかツアーバスに乗り込んだ。つかさは辛そうであったが、戻しそうになることはなく、ひと安心した。

サンミゲル共同墓地に着く前に、レストランに寄り、夕食があったが、つかさはほとんど食べなかった。私は、なんなく美味しく食べた分、つかさが可愛いそうに見えた。しかし、墓地に着く頃には随分と元気になってきた。良かった。これなら大丈夫そうだ。



「わあ、凄いね。綺麗」

墓地には多くのろうそくの灯りが揺らめいて、オレンジ色のマリーゴールドや他の花が敷地内を埋めつくしていた。墓の前にはたくさんのお供え物やカラフルな骸骨が飾られて、人々もそれぞれの先祖と思える墓の前に腰掛けていたりした。広場では、楽団なのか、音楽が鳴り響いていた。これがメキシコか。メキシコの音楽か。どことなく懐かしい心地がした。日本のお盆と違って、明るい賑やかなお祭りとされるが、日本でもお盆は盆踊りをして賑わっている。帰ってきた死者をもてなし、一緒に楽しく過ごそうという意図は似ているような気がする。同じモンゴロイドだからか。ただ、ここには、陽気に音楽を奏でる人々や、歌う人。骸骨の仮装をした人も多くいて、死者が混ざって歩いていても気づかないかもしれない。

「つかさ、具合はどぉ、 大丈夫?  音楽いいね。なんか懐かしい感じがする」

「うん、いいね。もう、大丈夫な感じ。向こうの方も行ってみよう」

「うん、ここの墓地広いね。ずっと向こうまでろうそくだらけやね」

「花もすごい。たくさん敷き詰めてある」

私たちは、人が多く歩いている通路を奥の方へ向かってゆっくり歩いた。辺りはもうすっかり暗くなっている時間だが、多くのろうそくで明るくなっている。お供え物は、明日が子どもの死者が帰ってくる日らしく、お菓子がメインだった。明後日は大人が帰って来る日ということで、お酒でもてなすそうである。



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