第21話 【 メキシコシティ経由グアナファト行き 】


 それから何時間経っただろうか、気づいた時、つかさは、また寝ていた。朝食が運ばれるまでの間。私は、隣の男性に気の毒だなと思いながら悪戦苦闘して二回ほどトイレへ行った。若い頃なら一回で済むのだろうが、年を取ると、朝方は、どうしても回数が増えてしまう。おまけに身体障害者とあっちゃ、うまくすり抜けずらく、申し訳なく思ってしまう。つかさと合わせて合計三回も男性に席を退いてもらった。朝ごはんを食べて、また、しばらくしたらメキシコ現地時間に合わせてだろうと思える昼食が出された。今度は、私は洋食、つかさが和食にした。

昼食が済むと間もなく、機体は下降を始め、メキシコシティ空港に着いた。入国審査を済ませたら自分たちで、グアナファトへ行くためのレオン・グアナファトバビオ空港行きの飛行機への乗り継ぎをしなければならず、私は、少し緊張してきた。ここで、間違えたりしたら、わざわざ、私がつかさを連れてきた意味がない。以前、アイルランドへ出張した時、ロンドンのヒースロー空港でアイルランド行へ乗り継いだのだが、二回目だった私が、同僚を引き連れて全力で走って、最終だった便にギリギリで滑り込んだことがある。今は、走ることは出来ない。もし、間違えたりしたらアウトだ。事前に充分調べてきたつもりだが、入国に思わず時間が掛かったりして遅れてしまうこともあり得るし、実際の距離は長いかもしれない。しかし、なんとか無事、私たちは、レオン・グアナファトバビオ空港行きへ乗り込んだ。



空港に着くと私たちは荷物を受け取ってツアーが用意している車に乗り込んだ。田舎の空港かと思いきや、思ったより綺麗で大きな空港で、アメリカからの飛行機も乗り入れているという国際空港だった。車は、別のツアーのグループもいたのか、私たちはそれぞれのホテルで降ろされた。

私たちのホテルは、街のほぼ中央辺りにあるオステリア ・デル ・フライルという三つ星ホテルだった。海外での星の数は、国によって程度が違うと思われるが、三つあるので、安心だろう。三階の建物は、ピンク主体の部分と黄色い部分と二つの建物がくっついている様に見えた。狭い入り口を入ると、通路にはいろんなものが置いてあって、私たちは、何やら宗教的な絵がかけられたオレンジ色の壁と白い壁、板張りの床、天井はレンガ模様になっている部屋へ通された。部屋にはさすがは海外、白い大きなダブルベッドが二つ、どちらも真紅のスローがかけられていた。

「わー、広い。ダブルが二つもある。四人泊まれるじゃん。お母さんと弟も来れば良かったのに」

とつかさは興奮していた。その場合、私は、誰と寝るのか、お母さん? 弟? 私は直ちに想像するのをやめた。つかさと二人きりだ。海外へ出張した時、いつもひとりなのにこんなにベッドもったいないと思っていたが、今日はつかさと二人だ。お母さんと弟まで押し込む必要はない。

「そうやね。6億当たっていればそれも出来たかもね」

「こうじさん頑張って。また来よう」

着いた途端、また来ようとは、これまでで嫌になってないという事だ。私はこの言葉に少しホッとした。

「はあい、つかさとまた来れるなら頑張ります。何を?  ビッグは頑張っても当たらないから頑張るなら小説。小説が売れるならまた来れる。つかさ頑張ってよ。つかさが面白いことしてくれたら売れる」また来るなら絶対今度こそ嫁さんもくっついてくると思ったが、そう答えた。もう夕方で辺りは少し暗くなりかけていたが、今夜は、チェックインした時に予約しておいたホテルのレストランでイタリア料理を食べることにした。メキシコ料理は明日からタコスなどどこでもたくさん食べることになるだろうと思ったのである。まあ、初日ぐらいは恋人同士みたいなことをしてもバチは当たらないだろう。


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