真実

第45話

「悪い、しばらく忙しくなりそうなんだ。代返、頼む」


 こんな勝手な頼みも、公一だからこそできること。

 思った通り、公一は快く引き受けてくれた。


「オッケー。いいとこ就職しろよ」


 公一の笑顔に苦笑い。

 今の俺は、就職どころじゃない。

 それよりももっと大事な問題。

 知らなければいけないこと。

 誰にも相談することはできないが、調べる上でのとっかかりはあった。

 あの人が言っていた、精神科の友人。

 公一にそれとなく尋ねてみると、驚いたことに公一は憶えてくれていた。


「あぁ……あの綺麗な女の人。おれさぁ、てっきりあの人がおれのお母さんになるんだとばかり思ってたんだよね、小さい頃。しょっちゅう家に来てたし。ま、父さんとはただの友達みたいだね。勤めてる病院も一緒でさ。……で、どうしたのさ、純平。精神科に、用事でもあるの?疲れすぎて精神的に参っちゃったとか?何だか心配だなぁ。この頃口数少ないし。おれも一緒に行ってやろうか?」


 何だか公一にとても心配されつつ、俺はその人の名前を聞くと、一緒に行ってやる、との申し出を断って一人で病院を訪ねた。



 大病院は、どこもそうだが患者が大勢いて、順番待ちもいつになるかわからない。

 しかし、俺には時間がない。

 唯志がしばらく病院を休んでいるのをいいことに、俺は悪いとは思いつつ、唯志の名前を使い、最短でその人の元へと案内してもらった。


「唯志くんのお友達ですって?」


 公一の言うとおり、綺麗な女医だった。


「めずらしいわね、唯志くんにお友達なんて。この病院内にだって、あんまり親しい人いないみたいだから。でも安心したわ。あの子にもお友達、ちゃんといたのね」


 その人は、優しい笑顔をしていた。


「それで、今日はどんなご用件かしら?まさか、唯志くんのお父さんに、何かあった?」


 優しい笑顔が曇る。


「いえ、唯志のお父さんは、変わりありません。今日は、少しお聞きしたいことがあって、あの……いきなりこちらにお伺いするのはご迷惑とは思いましたが、申し訳ありません」

「聞きたいこと?」

「はい……あの……」


 聞きたいことは準備してきたはずだった。

 けれども、いざとなると、なかなか口から言葉が出てこない。

 口ごもっていると、先生は俺の顔をじっと見、


「あなた……お名前は?」

「あっ、すみません。申し遅れました。土屋純平と申します」


 俺の名前を聞いたとたん、納得したように頷いた。


「あなた、君子さんの息子さんね」

「はい、そうです」

「やっぱり。似ているわ、あなた。お母さんにそっくりよ」

「そう、ですか」

「でも、勝雄さんの子と君子さんの子がお友達なんて、これも何かの縁なのかしらねぇ……」


 先生は、感慨深げに何度も頷いた。


「じゃあ、聞きたいことって、お母さんのことね?」

「はい、そうです」

「そう……」


 しばらく、先生は俯いて考え込んでいたが、やがて顔を上げ、


「わかったわ。でも、長くなると思うから、今夜、仕事が終わってからでいいかしら?」

「はい。お願いします。」


 先生の提案に、俺は祈るような気持ちで飛びついた。


「じゃあ、8時にここへ来てちょうだい」


 テーブル脇のメモ用紙にサラサラと書き込むと、一枚切り取って俺に手渡す。


「はい。それであの……このことは唯志には内緒で」

「……わかったわ。」

 怪訝そうな顔をしながらも、先生は了承してくれた。

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