第24話

 俊介が実家に帰ってきて一日が経った。

 気ぜわしいことに、俊介は今日の昼頃にはここを出るという。

 だからという訳じゃ無いのだろうが、その日友恵ははやたらと早く目が覚めた。

 時計を見てみれば、針はもうすぐ午前五時を指そうとしている頃合いだ。

 喉が渇きを訴えてきて、お茶でも飲もうかと廊下に出ると、冷え切った空気が友恵の体を震わせた。

 途端に暖房の効いた自室と暖かい布団が恋しくなるが、喉の乾きも遺憾ともし難い。

 暖房のせいで室内の空気が乾燥し、冬場でも脱水症状になって倒れた。なんて話はこの辺ではたいして珍しい話でもない雪国の隠れあるあるだ。

 友恵は自室と布団の誘惑を振り切り、改めて台所へと向かう。

 冷蔵庫にしまっていたペットボトルの麦茶をコップに注いでひと思いに飲みきり喉を潤して自室へと戻ろうとすると、ふと居間の方から人の気配がする気がした。

 やだ、泥棒とかじゃないでしょうね。

 寝起き頭でそんなことを考えながら、居間の扉を少しだけ開けて隙間から、そっと中をのぞき込む。

 中にいたのは俊介だった。

 座卓の上に広げた手帳らしきもの開いてなにやら物思いに耽ながら眺めている。

 とりあえず泥棒では無かったことに、胸をなで下ろし、友恵は僅かに開けていた扉を完全に開け放った。

「おはよう俊介、随分と早いのね」

 声を掛けられるとは思っていなかったのだろう、声こそ上げなかったが、俊介の肩が僅かに跳ねる。

「……目が冴えちゃってさ」

 いいながら俊介は、手元で開いていた手帳をさり気なく閉じる。

「なにをしてたの?」

「別に、なんでもないよ」

 それは明らかに何かを隠しているような雰囲気だったが、別に言うほど気になるわけでも無かったので「ふーん」で流す。

「それより、姉さんこそ今朝は随分速いじゃない。珍しく」

 珍しくは余計だ。

「なーんか喉渇いちゃって、でもまだ早いしこれからもう一回寝る」

「ふーんそっか」

「あんたこそ、出発は昼頃なんだしもう少し寝ておいてもいいんじゃ無いの」

 新潟から東京までとなると、車で高速乗っていっても六時間はくだらない。

 それだけ長時間の間、寝不足で運転するのはつらいものがあるはずだ。

 しかし俊介は「大丈夫」と言って。

「俺は起きてるよ。せっかくの時間を寝て過ごすなんて、もったいないからね」

 寝れるときに寝ないのも、それはそれでもったいないんじゃないの? と、思わなくも無かったが、起きていたいというのならわざわざ眠らせる必用もない。

「ま、好きにしなさいな」

 あくびを噛み殺しながらそう言って、友恵が居間を後にしようとすると背中から『お休み』という声が掛けられる。

 その声に友恵は後ろ手に手を振って答え、自身の部屋へと戻っていった。


家族に会いに行く☑

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