Interval-①

十愛、と名乗った天使のことを、忘れられないままでいる。


彼女と出会ったのは、確か、半年ほど前のことだっただろうか。当時付き合っていた彼女と別れ、寂しかった僕は、偶然出会った彼女と一夜を共にして、寂しさを紛らわせたのだ。

彼女は、まるでまぼろしのようだった。朝になれば忘れてしまう、曖昧な夢のような、そんな女の子だった。確かにそこにいるのに、そこにはいないような、不思議で儚い雰囲気を漂わせていた。

そしてその異質さ故に、その存在を、鮮烈に記憶させられるような、そんな少女だった。

たった一夜を共に過ごしただけの僕が、彼女のことを忘れられないのが、何よりの証拠だろう。僕はあの日の彼女の姿を、体温を、ひとつひとつの言葉でさえも、忘れられずにいるのだ。

また、彼女に会いたい。しかしなんの手がかりも掴めないまま季節は過ぎ、いつしか彼女と出会ってから、半年が過ぎようとしていた。

そんな時だった。

都心から少し離れた駅で、彼女の姿を見かけたのは。


その姿を見たのはほんの一瞬だったけれど、だけど、間違いなくそうだ、と思った。まるで人のものじゃないような美貌を持っていた彼女を、見間違えるはずがないのだから。

ああ、やっと見つけた。自然に手は、彼女の姿を写真に収めていた。

彼女は僕の知らない女性と一緒にいたようで、なんならその女性の姿も写真に映り込んでしまったが、そんなのどうだっていい。

ただ、彼女の姿をもう一度見ることができたという喜びが、体中を満たしているような、そんな気分だ。

ああ、ひどく気分がいい。

僕は軽い足取りで、宿泊先へと足を向けた。




その投稿を見かけたのは、本当にただの偶然だった。

僕が度々、暇潰し程度に眺めているSNSに、彼女の写真が掲載された投稿が流れてきたのだ。その投稿には、彼女の写真とともに「探しています」という言葉が記されていた。

投稿者は、彼女の兄を名乗る人で、その証拠とでもいうかのように、共に投稿されている写真の十愛ちゃんは、どれも僕が出会った時よりも、どこか幼い雰囲気を醸し出している。おそらく昔の写真なのだろう。写真に写る十愛ちゃんはどれも無表情で、あの時出会った彼女とは、まるで別人みたいだった。

僕は衝撃を受けた。あの天使には、家族がいたのか。

家族がちゃんといるのに、あんなふうに、毎夜、共に過ごす大人を取り換え引っ換えするような生活を送っている少女。

そんなのは良くない。そう思った。

迷子になった子どもが、庇護される場所がちゃんとあるのなら、そこにその子どもを帰してあげるのが、大人の役目なのだ。

だから十愛ちゃんも、このお兄さんのところに、帰るべきなのだ。

僕は慌ててその投稿にコメントを残した。十愛ちゃんの姿を見かけたこと。盗撮してしまったのは申し訳ないが、証拠の写真もあるのだということ。

そして、その投稿に先程撮った十愛ちゃんの写真を添えて、僕は投稿のボタンを押した。

正常にそのコメントが届いたのを見て、僕は安堵の息を吐き出した。

儚い雰囲気を醸し出していた少女。まるでまぼろしのようにも思えたその儚さの正体は、きっと、帰るところが分からなくなった、不安さからくるものだったのだろう。

十愛ちゃん、と。僕は口の中で、少女の可憐な名前を転がした。もう二度と、僕はこの名前を口にすることはないだろう。

彼女が無事に、帰るべきところに帰れたらいいな、と。僕はそれだけを願って、先程コメントを投稿したSNSを閉じた。

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