第42話 隣で寝ているのは
目が覚めるといつもの部屋の天井ではなく、違う天井でした。なんてルイーズたちの話すロマンス小説の一文みたいな感想を抱きながら天井を見上げる。
隣に人の気配を感じて寝返りを打って私は勢いよく体を起こした。ついでに服を着ているのかまで確認する。大丈夫だ、ちゃんとネグリジェを着ている。
ん? ネグリジェ? 裾の引き裂かれたドレスではなく? 疑問符が頭上でいくつも飛び交う。私は記憶を辿った。
婚約パーティー中に現れた魔石獣の幼体であるヘイエイは額に人工魔石が埋め込まれており暴走状態にあった。それを私とアランの二人で止めることに成功。
ヘイエイも生きていた。安心した私は気が抜けて疲れと共に倒れたところをアランに運ばれた。
「それでこの状況は何?」
運ばれた後の記憶は起きるまでなかった。目が覚めたら隣でアランが寝ている状況に理解が追いつかない。
状況を整理しようとすればするほど、顔が熱くなり混乱するばかりだ。アランと一夜を共にしたのだろうかとか、彼が着替えさせてくれたのだろうかとか。
「とりあえず起こすか」
状況説明してほしいし。私はベッドに手をついてアランの顔に自分の顔を近づけた。
レウニールの時もそうだったけど、アランは本当に美形だと思う。
そりゃあ、貴族の女性陣が狙うのも頷ける。そんな人と昨日私は緊急処置とはいえ口付けを。
「……っ」
思い出したらまた顔が熱くなる。結い上げていない私の髪が肩から滑りアランの顔に触れた。
くすぐったかったのか、眉を寄せる彼がなんだか可愛く見えてもう少しだけ見ていたい欲に駆られる。私は髪を耳にかけて人差し指でアランの頬を撫でてみた。
再び眉を寄せる彼を眺めていると腰を抱かれてベッドに鎮められる。組み敷かれている私はアランを見上げながら声を上げた。
「アラン様いつから起きてたんですか!?」
「……。君が勢いよく起き上がったあたりから、かな」
「最初からじゃないですか! 起きてたんならなんで狸寝入りなんてしてるんですか!」
「君の反応が気になって様子をうかがっていたら起きるタイミングを逃してしまった」
「もう。起きたのなら状況説明くらいしてください。あと、早く退けてください!」
いつまでも組み敷かれていては誰かが部屋に入ってきたときに誤解されてしまう。考えている間にノック音が聞こえた。
「失礼します。アラン様、お目覚めに……。お取込み中でしたか、失礼しました」
入ってきたエリナーは私たちを見て一礼すると出て行こうとする。
「待って、待って! エリナー! ちょっと待って! アラン様、退けてください」
「私が言うのもおこがましいですが、アラン様に退けてと言えるカレナ……様はなんと言うかさすがですね」
どういう意味!? アランは早く退けて! 他の人、アリスが入ってきたら何て言うか。
「エリナー、お兄様たち目を覚ました? まあ! お兄様ったら積極的ですね。でも、節度は保ってくださいね」
エリナーのあとを追って入ってきたアリスが私たちを見て両手で口元を覆ったと思えば満面の笑みを見せながらアランに注意した。
アランは不機嫌そうに渋々と退ける。安堵した私は身体を起こすとアリスが傍に寄ってきて抱きついてきた。
「もう! カレナのバカ! 単独で魔石獣の幼体と戦うなんて無茶をして。心配したんだからね」
涙声のアリスをあやすように背中を優しく擦りながら私はごめん、と謝った。
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