第35話 見送り
はぐれた理由は聞かない。無事だったことに安堵しながら今後のことを考える。テイオ様を連れて魔石獣の幼体との戦闘は厳しい。
はっきり言って足手まといだ。ネヴィル公の命は果たした。
アランのことだからこのままテイオ様を連れてここから離脱すると言い出すだろう。
せっかく屋敷に戻ってきたのに魔石獣の幼体と戦うこともなく戻るなんて絶対に嫌だ。残る理由を探していると、血の匂いがして引き剥がしたテイオの足を見ると右膝を擦りむいていた。そこから血が出ている。
「あら、テイオ様怪我を」
「にげる時に、ころんで」
血を止めるハンカチを探しても持っていなかった。私は迷うことなくドレスの裾を引き裂いた。
「カレナ」
目を丸くするアランに疑問符を浮かべた私はハッとした。
しまった、このドレスはアランが用意したものだ。それを目の前で引き裂くなんて軽蔑したかな。
「すみませんアラン様。止血するものを持っていなかったので。今度弁償しますので今は流してください!」
「いや、別に怒ってはいないのだが。君は何の
応急処置をしている間に魔石獣の幼体の咆哮が聞こえてきた。近くに追加の魔獣が来ている気配がする。魔獣たちには悪いけど利用させてもらう。
「アラン様、テイオ様を連れてネヴィル公の元へ戻ってください。
「だが!」
「馬に三人は負担が大きいです。それに私はアンスロポスですし、先ほど見た通り魔獣相手の戦闘には慣れておりますので心配しないでください。片づけたら後を追いますので」
早く行って。そうしたら私は魔石獣の幼体と思う存分遊べ、違った。戦えて魔石もゲットできる。
ワクワクが止まらない。ニヤケないように顔を引き締める。
あ、アランが無表情なる意味が少しわかった気がする。なるほどこうなるのか。
「カレナさま……」
泣き顔のテイオ様が私を見る。
「テイオ様。ネヴィル公……いいえ、おじい様がすごく心配していましたよ。早く戻って元気な姿を見せてあげてください」
「でも」
「私は大丈夫です。そうだ。おまじないを一つ」
胸元に隠しておいたペンダントを取り出してテイオの右膝にかざした。これはアリスの魔石。治癒能力のある魔石の力を解放すれば淡く光った。
「あ……。いたくない」
「よかった。これは秘密ですよ」
「今のは」
「アリスの魔石ですよ。素敵な力でしょう。アリスだけの特別な力です。さあ、アラン様早く行ってください」
アランの背中を押す。
「……絶対に無茶はするなよ」
「ええ。もちろん」
馬に乗ったアランたちに笑顔で返しながら私は手を振った。
馬の背中が遠ざかって反対を向いた私はガッツポーズした。
よっしゃー! 待ってて魔石獣の幼体! 君の魔石は私の物だ!
私は背を向けて銃を構えて歩き出した。
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