第25話 カレナの過去

「ああ。伝承程度には。実在しているのかわからないが」


「私、そこで育ったんです。ものごころついた時には太陽の光が届かない地下都市キキーイルにいて師匠に育ててもらいました。そこには他にも人が住んでいてみんな優しかったんです。私に魔石や魔鉱物の扱い方や基礎知識を与えてくれたのも彼らでした」


 親とは違う近所のおじちゃん、おばちゃん、お兄さん、お姉さんたち。


 みんなが魔石や魔鉱物を自由に扱うことが出来た。その姿が好きで私も追いつきたくて必死だった。


「プロトポロスって知ってますか? 開拓者の意味を与えられた人たち。キキーイルにいた人たちはみんなそう呼ばれていました。私と師匠はアンスロポスだったけれど、みんな気にすることなく接してくれて大好きでした」


 アランは静かに耳を傾けてくれている。今でも彼らの顔は覚えている。目を閉じれば鮮明に思い出せる。私は続きを話した。


「十年前、私と師匠はお使いで地上に出ていました。終えてキキーイルに戻った時にアンスロポス側の軍人がみんなの研究を軍事利用するための交渉に来ていました。とっさに師匠の指示で隠れて様子を見ていたら交渉は決裂。みんなを殺そうと武器を構えた軍人に対してリーダーが石化の魔石を発動させたんです」


 石化の魔石は発動中、石を見た者を石化していく。軍人はもちろん、みんな示し合わせたように魔石を見たのだろう。


 師匠の指示で目を閉じた私が次に目を開けた時にはみんな石化していた。たぶん、魔石や魔鉱物の技術を軍事利用させないよう口封じも兼ねてなのだろう。


 師匠が言うには自分たちの技術が悪用されそうになった時、軍人たちに自分たちの居場所が知られた暁にはこうすると決めていたらしい。


 キキーイルで生まれた人たちはみんな身体構造的に地上に出ることは出来ないが故、地上へ避難するという選択肢がない。だから石化という方法を取った。


 けれど、幼かった私は理解することが出来ず泣き叫んだ。石になったみんなに縋った。どんなに呼びかけてもみんなから声が返って来ることはなかった。


 話し終えた私を見るアランは悲しそうで、なんと言葉をかければいいか迷っているようだ。まあ、重い話なのだから仕方ない。


「そんな顔しないでください。師匠が魔石の研究を進めればもしかしたら石化の魔石の力を解除する方法に辿り着くことができるかもしれないって言ったんです。だから私は研究を続けているんです。地上に出たばかりの私は荒れてて、がむしゃらにテリブの森で魔獣から魔石を採取していた気がします」


 バーサーカーみたいに手当たり次第に魔鉱物や魔石を集めていた。そのときに森で一人の男の子に遭遇して助けた気がするけど、その子元気かな。


 なんで今そのことを思い出したんだろう。たぶんその子がホワイトブロンドの髪にヘーゼル色の瞳だったからだ。私は静かに頭を左右に振って思考を散らした。

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