第23話 眼鏡と瞳の色

 邪魔はしない宣言通りだ。私も研究の続きを始めるべく小瓶を手に取った。


 中には赤色のひし形十二面体の魔鉱物がいくつも入っている。パイラルスパイト系の魔鉱物は主に火属性の魔力が宿っている。


 眼鏡を外して一粒手に取った赤紫色の魔鉱物をジッと見つめた。魔力の流れを見て属性を細かく分けるのも研究に必要だ。


「これはロードか。で、こっちはモザンビークと」


 仕切りのついた標本箱の中へ仕分けした魔鉱物を入れていく。


 ふと視線を感じて魔鉱物から視線を外すと、アランがこちらを見ていた。魔鉱物の仕分けなんて見ていてもつまらないだろうに。


「あの、アラン様。なにか?」


「すまない。眼鏡を外しているのが新鮮でつい見てしまっていた」


「眼鏡? ああ、この眼鏡に度は入っていませんので裸眼でも十分見えていますよ」


 不思議そうな顔をするアランに私は自分の眼のことを話した。私の眼は魔力の流れを視認することができる。


 普段はアイスブルー色の瞳は魔力の流れを見る時だけ琥珀色へと変わるため他人から見れば異様に映る。


 瞳の色の変化は自分の意思で止めることが出来ないため普段から眼鏡をかけることでなるべく他人から瞳の色の注目を避けてる。


「あははは。ここにはサリー以外来ないからつい眼鏡を外してしまいますね。不快であればかけますよ」


「いやいい。眼鏡がない方が君の顔が良く見えていいからな」


 この人は心を開くと素でこういうことを言うのか。心臓に悪い。


「他にもこの眼鏡は特殊な加工が施されていて、石化の魔石にも対応できるんですよ」


「石化? 聞いたことはあるが、伝説級の魔石と聞く。そんなものに遭遇する確率の方が低くないか?」


「ええ。だからずっと探しているんです。ずっと……。あ、そんなことよりアラン様は最近特に忙しかったんですよね? 工房に立ち寄らず自室でお休みになられた方が良くないですか?」


「忙しかったが、君に会いたかったからな。不思議と君の傍は落ち着くんだ。仕事で王宮にいたからか、息苦しくて。ここに来たら楽になると思ったが、来て良かった」


「そうですか。魔石とか魔鉱物の効果でしょうかね。やっぱりいいですよね、魔石たち」


「……そういう意味ではないのだが、まあいいか。君が楽しそうならそれで」


 苦笑を見せるアランに私は疑問符を浮かべながら魔鉱物に手を伸ばした。


 赤紫色のロードライトは花の魔力から出来た魔鉱物だ。花系の魔鉱物は魔力を循環させることで花の香りを出すことができる。


 水系の魔鉱物と組み合わせると魔力の塊が立体映像のようになり花を咲かせるように見え、花の香りも相まって最近商品化したことで癒しを求める女性に人気となっている。売り上げも好調で私たちの研究資源の糧となっている。

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