第五話 名前なんて無い
この世界は大きく別けて二つになっている。
『魔界』と『人間界』。そう呼ばれる二つの場所は、それぞれ変った生態系を気づき、全く違う世界を構築している。
人間界は自然豊かで人族、獣人、エルフなどの種族が住み、生きた土地と呼ばれるほど豊かな土地が広がっている、実り豊かな緑の世界である。
一方魔界では、魔族と呼ばれる種族がおり、人間界に比べて多くの魔獣が住む魔境となっている。土地は飢え、水源は汚染され、空は薄暗い、人間界とは真反対な死んだ土地が広がっている。
そんな荒廃した世界に住む魔族はある日を境に人間界への侵攻を開始した――
最初は些細な紛争程度のものだったが、やがて激化し多くの生命の失われる大規模な戦争が発生した。
そして、二百年前ほどに発生した大戦争、人族と魔族による争い。魔族は最も人間界で生息領域の大きい人間へ襲撃をかけ、他種族が介入するほどの戦争が勃発した。
この戦争では人族、人間界側が不利な状況が続いていた。
相手は人間離れした力を有した種族、魔界という過酷な環境に住んでいるために持つ魔族の能力は凄まじく、平和に暮らしてきた人族とは大きな差が存在していた。個々の戦力差の違い、元来特別な力を持たぬ人族は不利な状況が続いていた。
そして、そんな強力な力を持つ魔族の中でも突出して力を有していたのは、『魔王』と呼ばれる魔族の王。
残虐非道な魔王は内包している魔力量が、人族のそれとは比べものにならず、魔族の中でもトップの保有量であった。人族側の戦力は見る見ると削られ、人類側の敗北が近づいていた。
そんな中、200年前の人間たちはある思考に思い至った。
『そうだ、勇者を……異界人を連れて来ればいいのだ』
思い至った回答、それは――この世界に伝わる伝説、神話に存在する勇者の召喚。
過去、三原神と呼ばれる原初の神々、
神話における勇者とは、原神によって召喚された異界の英雄とされ、原聖霊と共に原悪獣と戦った。勇者はその身に宿した圧倒的な力によって、原悪獣のその存在を滅ぼしたと言われている。
そんな伝承を元に封印されていた勇者召喚の魔法を使用し召喚したのが、200年前の四人の勇者である。
四勇者はそれぞれ圧倒的な力を有し、人族側の戦況を一気に覆し魔族側の戦力を大幅に削っていった。
なぜ勇者と成った人間がこれほどまでの力を有しているのか? という理由は判明定かではないが、一説では原聖霊や原神の加護によるものだとされているが、その理由は定かではない。
……おっと、ここで少々変りまして、その説明をしようか?
とりあえず皆様方、初めまして。臨時解説係の無銘さんだぜ? 気軽に無銘って呼んでくれ。
俺はちょくちょく解説役(臨時)、何者でもないし、何者でもある人物と解釈を……って、そんな冗談、戯言はいいか。では、気を取り直して少し話をしようか。
今回、俺が話す内容は先程語られた勇者召喚による付加能力についてだ。
この勇者召喚というのは多次元、
天無が元いた世界。その世界における魔術師などの人間達が、長年の研究、探究の果てに一握りの者が干渉できる真理、魔法と呼ばれる未開の領域の一つとされている。ただ、原初の勇者召喚の原理はあくまで下地が既に存在した状態で生み出されたもの、原理が定かでない以上、魔術師にとってそれは〝手に余る奇跡〟でしかない。
そもそもとして、現存する勇者召喚に関しても使用されている術式の構成は大半が原型のルーン魔法、既に失われた技術であるのと同時に、近代では既に魔法ではない。だが、現存する勇者召喚に使用されているのは〝影の者〟が生後に辿り着いた新たな真理、魔術ではなく魔法となったモノが使用され劣化補強されたものであるため、元になったモノがあやふやになり過ぎて何が何だかわからない。真面な魔術師でも解析は困難だろう。
長年の時を経て様々な要素が混在したそれは、もう作成者本人すら解読不可能なほど複雑化している。偶然に出来たモノに成り果てた、それはもうただの奇跡に過ぎないのである。
……まあ、そんなこと今はどうでもいい話か、本題へ戻ろう。
この勇者召喚と呼ばれる魔法に類似した奇跡の基本原理は、魔女先生が語っていた転移魔術と召喚魔術の原理、それを応用したようなものである。
前提――彼女が言っていたように等価交換の原理で言えば、『相応の代償を支払えば、相応の結果を得ることができる』。これは確かな事実である。もちろん、そこへ至る
故に世界間の移動という特大の奇跡、それを起こすことは不可能ではない。
この勇者召喚に至っては、魔法や神術と呼ばれる究極の奇跡なしでも、それに近しいことを起こすことができるのである。勇者召喚は既に存在している道を通るだけであり、新たにルートを作成しているわけではないのだから。
ただ――勇者召喚には多大な危険が伴う。
本来、人間が世界間を移動する際、生命構成三大要素あるいは、存在構成二大要素を護る術を持っていなければならない。そうでなければ己の存在を保つことができず、例え世界を越えても〝人の形〟を……いや、〝存在の形〟を保っていられずに――消滅する。
これは絶対の法則である――
故に先の説明にある「勇者の持つ圧倒的な力」とは、世界と世界の間に存在する〝可能性の混沌〟あるいは〝混沌の渦〟と呼ばれるモノに触れてしまった影響である。
先程語られた「原聖霊や原神の加護」というのもあるのだろうが、それ以上に〝可能性の混沌〟とは、人間という一個人が触れていい
それに、俺から言わせてみれば〝勇者〟という在り方は、邪道も邪道に見える。
どうせ触れるのであれば、もっと核心に触れなくちゃつまらない。そうでなければ、そんな雑多な方法で手に入れた強さに意味はない。借り物、不釣合いな力は余分に過ぎない。
別に魔術師ってわけじゃないが、魔術師風に言うのであれば「理解できぬモノを扱うことほど、愚かなものはないな」って感じかな?
まあ、〝可能性の混沌〟に触れて運良く生き残ったご褒美である、そう考えればいいのかもしれないがな。ただ本来の〝根源に触れた者〟と比べれば、内包するものがお粗末にもほどがあると思うが……まあ、どうでもいい。
じゃあ、これにて説明終了だ。
See You、無銘さんは皆様方にまた会えること、楽しみにせず、待ってるよ。
はぁ~…………全く、あのバカ――
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