第四話 素朴な疑問

 「――どういうことなのですか? 詳しい説明を求めます」

 俺が視線を動かした瞬間、すぐ隣に立っている人物、高月たかつきなぎさによって阻害され、中断させられる。スイッチがカチッとオフになる。淡く灯った緑の光が消え、死んだ魚のようだと評される黒い瞳に戻る。

 彼女はうちの高校の同級生で学級委員長である人物、異世界でなくてもリアルお嬢様というアニメみたいな設定を持った、庶民の俺には少々近寄りがたい存在である。※尚、そう語る本人は転生者である事実。

 しかし、そんなお嬢様は俺みたいな庶民もいいところの人間に妙に執着しており、俺だけ監視の目が強いという謎の出来事が発生している。何故か廊下を走っただけで怒鳴られ、女子生徒と話しているだけで不純異性交遊扱いされ怒鳴られ説教をされる。

 俺、そこまで好意を抱かれることをした記憶がないのだが……

 過剰なまでの行動を思い返したせいか、俺は茫然と半ば呆れたような目を渚さんに向けていた。

 「ここは……一体何所なのでしょうか?」

 凛とした声でそう問いかける渚さん。

 正直、こうも冷静に思考を回せていることに感嘆した。 

 非常時での判断は生死を分ける重要な要素だ。人は非常時に陥ると基本的に正常な判断ができなくなる、故に現在の彼女の冷静さは、非常事態に慣れていないであろうお嬢様のそれではない。

 周囲の生徒たちを見ればわかるが、浮かれる者や状況を呑み込めぬ者たちが大勢いる中、一際その冷静さが際立って見える。

 まあ、数人は少々冷静過ぎな奴もいるようだが……

 スッと周囲に目を向けると何人かは平静そのもの、現状を理解せずとも状況を冷静に判断する思考力を持つ者、起きた現象の凄まじさを理解して尚、興味を示さぬ者……もしくは、状況を呑み込めていないフリをしたキツネ、道化師ピエロがいるような気もしなくない。

 俺の知り合いにその類はいない筈だが……まあ、彼らは元来、表に顔を出すような者は少ないものだ、そもそも表に晒すのは重大なペナルティ違反、知られれば協会から袋叩きに合って殺されかねない。

 当然といえば当然のことだし、即座に気付けるような技量もない俺としては仕方ない。所詮は魔法使いの助手で魔術使い、使えるだけで詳しいわけじゃない。技量がないことに関しては自身を恥じるしかない、でもこちらとしても理由があるし、その件は不問にしてくれ。

 「ああ、そうであったな。その説明もしなければ……ここはジルフィール王国、その王城。我はこの国の王、アンドリュオ・ジルフィールだ」

 ……まあ、でしょうね。

 分かり切ってはいたが、その通り過ぎて何も思うことはない。こんな王の間的な場所にいる、王座っぽいに座っている人物が王でないなら、一体何なのだろうか?

 というか一つ疑問。元来、思っていたことなのだが、こういう転生ものは何故王の前に召喚されるのだろうか? 普通に危なすぎでは? 召喚されてくるのは異界の住人。そっち側、現地人からすれば未知の存在、今回は自分達に似た形をした人間であったが、必ずしも人である保障はないだろう。

 術式の仕組みや構成はよく知らんが、その世界で人と認識されるものが呼び出される仕組みであるなら、人と呼ばれる〝人に似た何か〟であったのなら、どうするつもりなんだ? 仮に呼ばれたのが普通の人だとして……かもしれない。


 ――そう、例えば俺みたいなのが出た時、一体どうするのだろうか?


 異世界転生系を全否定するような発言する、異世界転生&召喚系主人公の天無君であった。

 「では、お聞きしてもよろしいでしょうか? 私達がこの国に……この世界に呼ばれた理由を」

 渚さんがそういうと周囲のクラスメイト達が息を呑む。

 一方、俺は「な、渚さん、この人、隠れオタクか! な、なんてアニメぽいセリフだ!」と下らないことを考えていた。因みに俺はガンキシ(思いっきり)アニオタだし、アニメ系統の知識はそれなりに豊富な陰キャだ。

 「ああ、承知した。では話そう、我々がそなた達をここへ呼び寄せた理由を……」

 そういうとアンドリュオは語り始めた、この国を襲う脅威について――

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