希薄系主人公がダウナーヒロインとなんかやる話

sir.ルンバ

第1話 辞令


 本日、上司から辞令が下った。いつも上機嫌な上司は珍しく目の下に隈をべったりつけて、濁った目をして移動の勅令を命令なさった。結構ながい付き合いの私の観察眼によると、多分あれは自分で塗った隈だし、濁った目はカラコンによるものである。


 本日付けで私に課された仕事の内容を要約すると、有能かつ怠惰なある人間の世話係である。要約しても仕事内容がわかりやすくなることはないため、こうなった経緯を順に一から追っていこう。


 私の名前はカルという。性別は女。年齢は21。親類関係に関してはすこし複雑になる。祖父母は父系母系ともに数年前に亡くなった。16年前に父親はヤクザに海に沈められ、14年前に母親も交通事故で亡くなっている。このように死亡者続出の私の家系において、私の面倒を見たい人間というのは存在しなかった。ゆえに私は孤児院で育った。学歴は高卒。高校卒業後、現在の就職している企業に拾われ、今年で社会人三年目になる。高校の成績は佳良というべきものであったが、大学進学に必要となる費用がどうにもこうにも見当たらなかった。


 仕事内容は種々雑多なものであり、値する対価を頂戴できるのであれば殺人や死体の処理といった汚れ仕事まで担当する。ちなみに直近で担当した仕事は沖縄の議員の令嬢の子守である。沖縄は暑かった。


 その仕事が完了したのが五日前のことである。数日の休みを受給し、出社したところ、当の辞令を受け取ったわけである。この命令書を読んだ上司は社畜のコスプレをして楽しそうに仕事をしていた。変人である。彼に社畜の才能はない。定時だからと帰宅し、用事があると欠勤し、仕事が面白ければいくらでも会社に泊まり込む。彼がストレスを溜めたところなんて見たことがない。どこまでもアグレッシブな自由人である。


 辞令の内容に触れよう。会社からの命令で、私はこれから一人の異端審問官と同棲して、その補佐をすることになった。

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