第25話 これから先
やがて、朝なのに、クロキはトキを寝台に押し倒す。キスが続いてやまない。神獣はやれやれとトコトコと廊下へと向かって屋敷の散歩だ。
「初夜にお前を、抱く夢を見た」
「そんな、私の夢は、夢は……」平和すぎて思い出せない。でも近かったような、気がする。
「はじめてで、受け入れられたとは思えません」
「いや、俺とお前は確かに番ったのだ。夢の中で、夢の中でも!」
何度でも抱く、そんな言葉を思い出した。
城のものはことを察して来ない。
「朝から、いけません」
「仙女の羽衣を取ってしまえば、動けまい」
いつもされるがまま。それで毎回快楽と今では慣れたほんのちょっとの痛みに、クロキという少年が実は孤独で自分しか見えていないのではとトキは思う。
明るい場所なのに、朝なのに、だめ、こんなの。
「我が城のものに感謝しないとな。いつも、いままでなにかと世話をしてくれていたのか」
たとえば結婚のための婚礼衣装。馬車の手配。毎日の食事に入浴。あまり部屋数の多い城ではないが、それでも家具に埃はなく、ソファやクッションなどはふかふかで定期的に干されている様子だ。そして、二人の大好きなハーブ園や馬車での外出の手配。
クロキなりに城の人たちに対してありがたみを語った。どうやら、クロキは少なくとも、孤独、とは感じていないらしい。
羽衣を盗もう、という割にはどうやら性交にまで及ぶ気はないようだ。ただ、キスをして、それが好きなのか、トキの服の胸のボタンを三つ、四つ外して手を服の中に滑り込ませる。
「胸を触られて感じたことはあるか?」
「……よく、わかりません」
正直な感想だ。
必死に自分を愛そうとしてくるクロキに、興奮、してしまうのであって、胸を触られたり、摘まれたり、揉みしだかれたり、時には口で吸われたりしても。本当によくわからないのだ。
「クロキ様、朝からこんなの、いけません……」
一瞬、叱られた仔犬のようにクロキがその瞳を震わせるが、
「こういうのも、悪いことじゃない……」
と、不貞腐れて譲らない。エルフ神獣に結界を張られた上、初夜のあのトキまで夢で体感しては、どうしても子供のように駄々をこねる。
(これは、珍しい旦那様かもしれない)
クロキが何か葛藤しているような表情を見せて、やがて寝巻きの裾の中へ、そうっと、トキの場所へ触れる。
「トキのココは、いつも俺の指を濡らすな」
「それ以上は、だめです」
「服を着たまましよう、ほんとうは、脱ぎたいが、というより脱がせたいが、嫌われたくない」
やっぱり、自分の矮小だという体躯を見られたくない時期が来るようだ。
広い、二人が遊に寝転がれる寝台の上で、クロキは今までしたことないことをする。
トキの脚を開いて直接、指を這わせた場所を見る。
「嫌!!」
トキが手で隠す。
「その表情も、格好も俺には効果があるんだがな。いつもここを慣らしてやっているだろう。それに、」
強引にトキの手をのけて、素早く顔を近づけて。
「〜〜」
いやらしい音。わざとやっている。
「あまり見ないで、色や形で嫌われると、そのシノブさんから」
「そんなこともあるが、女もたいへんだな、まあ」
舐められ、舌でいじめられながら喋られて、いつものようにクロキの頭を引き離そうと強い力で押すが、びくともしない。むしろ、黒いさらりとした髪の感触にうっとりとしてきて、力が弱まってしまう。
「やだっ、おねがい、見ないで、どうか。好きにしていいですからっ」
気持ちは泣きたい気持ち。なのに涙が出ない。
「好きにしていいなら、好きにしていいんだろう」
「〜〜〜」
なぜ自分たちはこんなにも、いやらしいのか。
「クロキ様、エルフ様のこと……」
いきなり指を一本差し込まれる。大切な場所を見られながら。
「こうなっているのか……、トキ痛くはないか?」
「っ!知りません!」
きゅう、っと中が締まる。
「恥ずかしいようだな、お前の恥ずかしい癖でわかる」
ちがう!ほんとうに怒っているのに。
「クロキ様のも、ちゃんと見たことがないです」
指が引っ込められて、あっ!っと声が漏れてしまう。
「……見たい、のか?」
「……いいえ」
クロキが顔色の悪い顔で。思いつめながら。
「俺は、トキになら、見てもらいたい」
「クロキ様が扉を壊しちゃったから誰か来るかもしれませんよ」
「こんな時に誰も来ないだろう」
見ると、クロキの方の部分が、苦しそうだった。
「どんな気持ちなんですか?その今のクロキ様のは」
「トキは俺に触れられたいと思うことがあると言っていたじゃないか!」
でも!と続けて、触れてもらえないなら自分で、しごくしかない、と弱々しく呟く……。
仕方のない空気が新妻の、トキの広い部屋に広がっていく。こんな時もあるのだ。
トキはクロキにお願いしてみる。一緒に外の世界へ行こう。手始めにまずはクロキが世にも珍しいインクを手に入れた秘密の市場。
そこにも神獣はついてくる。
やがて、いたずらに捕らえられカゴの中の、翅の鱗粉を取られ続ける妖精。成長し売れ残った見目麗しいが魔法が使えないとされる奴隷のエルフ、そして、商売に忙しい商人達から爪弾きどころか、やはり奴隷扱いに等しい扱いを受けている、可哀想に見える首なし騎士の子供。
そして、まだまだ多くの人と出会い、子ども達をさらに集め、賑やかにしていき、託児所のような役割を負っていく王城。そして、めでたいトキの懐妊。
しかし、時が経ち、あの魔術師達の生まれ変わりが現れる。果たして世界はどう対処していくのか。
そして、必ず二人はあの『時』へと戻ることになるという神獣の予言。
とりあえず今の早急の神獣の願いは良縁を占うのに必死な水の国の手助け、その次に転移で困っている子供達のところへ行き助けてほしい。子供にもいろいろあってケットシーやニンフ、のっぺらぼうもいるという。
愛し合う二人は、無事離れずに、試練を突破できるのか。
事の運び次第では、
「このままの『先』もありか、それはそれであの二人の時を戻さずにすむが、トキ!トキが欲しい!わしが男子の姿になれば、いちころ、なのに!おのれクロキ!しかし、奴にも苦労させたしな。まさか両親が互いに、ぱーとなー、を入れ替えて双方の家族を毒殺しあおうとか!おまけに人々を秘密裏に集めて怪しい集会を開いて淫らじゃったし!止まらなかったんじゃ!止められなかったのじゃ!……ふう。まあ、せめて、世界を巻き込んだ運命の恋で、たたかってもらうぞ!」
王城のせりだした屋根のてっぺんでばたばたしていた神獣は鈴の音を響かせながら遠くを見る。王城を囲む小さな森と、その先の草原、さらに先にまばらに見える、村。
「あそこに、たくさん、わしが、結んでしまった縁がある。まずはそこからな気もするな。さて、どうやらいつも、らぶらぶ、というわけではないな。すれ違い、というほどでもなし。じれったいのう」
じれったい?
「なんだかんだで、応援してしまうものなのか、この世界の運命を変えた恋は」
恋をしても打ち明けられない御伽の国の物語 明鏡止水 @miuraharuma30
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