その8-黒原さんside

【「7月終業式の日」に戻る】

 購買部のコピー機は、誰も知らない不思議がある。

 大前提、この学校の生徒は真面目だから、他の人のノートをコピーするようなことも少ない。

 だから、基本的に吹奏楽部で事務っぽいことをやっていて頻繁にコピー機を使う私だけの秘密!そう、このコピー機は、開けると色々なものが潜んでいる。

 4月は大量の桜の花びら、5月はおいしいウエハース、6月は高そうチョコだった。

 季節によって姿を変えるそのコピー機に、私は夢中になってしまって、いつしか学校に行くのが楽しくなった。

 逆に言うと、それだけのエンタメ性が無いと、毎日はつまらな過ぎるということなのだけど。

 7月に入ってから、特に動きが無い。動きが無いけれど、想像することは楽しくて、私なりに、このコピー機の法則を考える。今まで手にしたものに、どういったルールがあるのか。


「さくら、うえはーす、ちょこ…」

 必ずしも、季節限定のものばかり、食品という訳でもない。過度に高価なものでもない。


「さくら、うえはーす、ちょこ…」

ただ1つ言えるのは、「貰って嬉しい」ということだった。裏返すと、「自分ではわざわざ手を伸ばそうとしないもの」だった。

自分から何かに手を伸ばすことは少ない。本当は、もっと人間というものに深く関わるべきなのだろうけど。


「7月は何なんだろう…」

 そう考えながら、重いコピー機を開けるとランジェリーであった。

 食べ物もそうではあるけど、一気に人間らしいものになったものだ。

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