鉄道短編集「鉄道のある場所」

見慣れない地下通路

　そういえば、このあいだいつも使ってる駅で見慣れない地下への通路見つけたんだよ。

　何か工事をやってたような気もして、それができたのかなってその時は思ったんだ。

　それで、何ができたのか気になって降りてみたんだよ。

　でも、今考えるとおかしいんだよな。

　その時友達と約束してて、そんなに時間があったわけでもないのに、行っちゃったんだよな。

　その先には何があったかって？

　急かすなよ。まぁ、落ち着いて聞いてくれよ。

　そうしたら、地下街があったんだよ。

　すごい賑わってて、なんかキラキラして見えたな。

　新しくできたからかな。

　あちこちで呼び込みしてるし、ついつられて色々店を見て回っちゃったよ。

　土産ものっぽいかわいいお菓子とか、服屋とか惣菜やお弁当売ってるところとか、カフェとか、本当普通に商店街っぽくて良かった。

　ドラッグストアとか日用品もあったから、仕事帰りの買い物とかここで全部済ませられるじゃん、って嬉しくなっちゃったな。

　でも、不思議なんだけど、色々見て回ったのに声をかけられた記憶は全然ないんだよな。

　すぐ店を出ちゃったからかな。

　商店街の端にもうすぐ行き着きそうだなってところで、電話が鳴ってるのに気づいたんだよ。

　その電話で、友達と約束してたこと思い出してさ。

　一番奥まで行ってみたかったけど、その先に出口っぽいの見えなかったし、そもそも何があるかわからないから、これ以上迷子になって遅刻するわけにいかないじゃん？

　電話に出ながら、元来た道を戻っていったんだよ。

　電話に出ると、もうすごい怒ってる友人の声が聞こえてきてさ。

　謝るのに必死で、何とか電話終わらせて友人の所に向かおうと思ったら、もういつもの駅に出てたよ。

　それまであまり周りの景色見てなくて、急に外に出たような気がしたから驚いちゃってさ。

　立ち止まって、周りをきょろきょろ見ちゃった。

　でも、俺の後ろにはもう今上ってきた階段はなくなっていた。

　そこには、ただ駅の改札へ続く広い道しかなかった。

　通り過ぎる人からしたら、いきなり立ち止まってちょっと変な人だったよな。

　すぐにそれに気づいて、ごまかすようにすぐにその場を離れたよ。

　友達にはその話をしたのかって？

　あぁ、あの後無事に合流できて、言い訳も兼ねて話したけど、あんまり信じてもらえなかったな。

　それもそうだよな。俺も未だにあれは夢だったんじゃないかって思うよ。

　え？　どうしたんだ？　なんか深刻そうな顔をして。

　何か言いたいことがあるのか？

　うん……なんだよ、気をつけろってどういうことだよ。

　え？　お前の友達もその駅で同じようなことが何回もあって、連絡つかなくなったって……？

　なんだよ、それ……。

　うん、そうだな。何だかわからないから、俺も気をつけるようにするわ……。

　ただ、その駅通勤でも使うから、ほとんど毎日行ってるんだけど、俺たまに記憶がない時あるんだよな……。