別れの冬

 息を吐くと、白く凍るほどの冷たい空気の中、二人は駅で待っていた。

 周りは白い雪が深く積もり、ふわりふわりと大きな粒の雪が舞っていた。

 まだ外にいるには寒く、暖房がきいた駅の待合室に並んで座る。

 ホームにつながる扉はガラス戸なので、電車が来ればすぐに見えた。

 制服を着た少年と少女は、一つのイヤホンを共有して寄り添って座っていた。

「今何時」

 ふと、少年が少女に聞く。

 片方の耳は空いているから、相手の声が聞こえた。

「七時二十五分」

「あと十分か」

 七時に、駅に少女が乗る汽車が来る。

 また二人は黙る。

 駅の周りを覆う雪に、外の音は吸われて、部屋の暖房がうなる音しか聞こえない。

 静かな中、二人には共有したイヤホンから流れる音楽だけが響いていた。

 ふと、揺れを感じて外を見ると、一両のワンマンカーがホームに入ってきた。

 少年と少女は、何も言っていないのに、二人同時に立ち上がってホームへ歩き出した。

 二人をつないでいたイヤホンは、少女のかばんの中にしまわれた。

 外に出ると、一気に突き刺すような空気が肌に触れる。

 春と呼ばれる季節が近いはずなのに、まだまだ空気はそれを感じさせてくれない。

 つい、少年は少女の手をぐっと握りしめてしまった。

「じゃあね」

 しかし、少女は少年の手を優しくほどくと、そう言って少年へ笑って手を振った。

 その彼女の口からは、白い息が大きく出ている。

 汽車からも白い蒸気があふれ出ていて、辺りは白に包まれていた。

「うん」

 少年はそれだけ返し、小さく手を振った。

 うなずくだけの彼の周りだけ、白い靄は避けていく。

 少女は手を振りながら、汽車に乗り込み、車内へと消えていった。

 汽車のドアは閉まり、エンジン音をうならせて走り出す。

 赤いテールランプが、どんどんぼんやりと朧気になり、小さくなっていった。

 辺りの白い蒸気が晴れると、舞っていた白い雪はいつのまにかなくなり、白い雲に覆われていた空から、青い光が覗きだしていた。

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