第3話

 あの夜以来、小三次はお頭のもとから逃れること、あるいはお頭をこの世から葬り去ることばかり考えていた。こんな化け物を生かしていてはいけない。こんな化け物の近くにいたら、いずれ、俺は殺される...

 それに、小三次は、己の両親を殺めたのがお頭だということにも薄々勘づいていた。両親は俺を捨てたのではない。俺の[病]を治すための山寺での長い祈祷の帰りに、お頭の放った狼どもに喰われ、帰りたくても帰れなかったのだ。何が何でも富野白雲だけは許さない。必ずこの手で殺してやる...。

 しかし、そうはいっても、人を殺めるという大きな決断はそう簡単にできるものではない。臆病な小三次にとっては尚更だった。本来ならお頭に差し出すはずだった盗品の一部をこっそりくすねて、甲冑の下や、貴重品入れの小箱を兼ねる枕の中、仲間と示し合わせた木の根元などに隠しておくことだけが、彼にできる唯一の抵抗だった。小三次から下剋上の企てを聞いていた仲間たちは、彼らの兄貴分である小三次が動く日をじりじりと待っていたが、お頭暗殺の命令は一向に来なかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る