アキナイ部活!!!

第1話

「商人部...ショウニン?」

僕は一ノ宮ハジメ。この爽明中学校の新入生で、部活見学の途中なんだけど…校内をうろちょろしていたら、迷ってしまった!

たどり着いたのは、校舎のはしっこの教室。

この知らない名前の部活に興味はあるけど、新入部員ぼしゅう中の部室、とは思えないぐらい静かだ。

「あきんど、だ。あきんど部」

「うわあっ」

背後から、いきなり声がした。びっくりして、しりもちをついてしまう。

声の主が、手をのばす。

「大丈夫か?」

「ありがとうございます」

その手に引っ張られ、体を起こす。

声の主の男子は、上級生のようだ。金髪で、背が高い。

この学校、金髪OKだったっけ…?

その男子は顔は整っていて、笑みをうかべている。だけど、なぜか、いやーな圧を感じる。

「1年生だな。入部希望者か。でも、あいにく俺ら、新入部員をぼしゅうしてないんだ。」

「そうなんですね。道に迷っていただけなので、帰ります。」

聞いたことのない部活に、興味はあったけど、とにかくこの上級生のふんいきが、こわいから、早く、この場から逃げたい。

「悪いな。雇うのは、無理だけど、お客さんとして来いよ。サービスするぜ」

雇う、客、サービス...?それは、本当に部活動か?

全身が、この場を去れ!、と言っている。

でも…

「あきんど部って、どんな部活なんですか」

赤いサイレンが、頭の中でガンガン鳴っているけど、面白そう!というこのワクワクには、勝てなかった。

「せっかくだし、見ていくか?」

「はい!」

「よしっ、俺は、商人部部長の、万場リョウだ。よろしくな」

「一ノ宮ハジメです。よろしくおねがいします」

この人が部長だったんだ。堂々としていて、かっこいい。最初に感じた、あのコワさは気のせいかも知れない。

部室の古いトビラを、金髪が開ける。

よしっ!

覚悟を決めて、僕は、商人部の部室に踏み出した。

「らっっしゃあああい!」

「うおうっ!」

急な大きい声にびっくりして、よろけてしまう。横にいた金髪が支えてくれた。

「そんなに驚かなくていいよ。部員だ。」

部屋には、机と簡易いすが置いてあり、そこに部員の女子が座っている。部室は、普通の教室だと思っていたけど、その中は3人いるだけで狭い。木の板のかべで囲まれていて、きゅうくつだ。

その女子は、しきりにパタパタと、はたきをふっている。店番らしい。んなベタな。

「お客さん、悪いけど、今お店やってない。運が悪かったと思って、帰るがいい」

そっけなく、そう言われた。

「リン、俺の客だ。お茶でも買ってきてくれ」

万場さんが、リンと呼ばれたカタコトの女子に、小銭を差し出す。

「金の取れない奴に興味はない。自分でやれよ」

「つれねえな。3時のおやつを、ついでに買ってきていい、と言おうと思ったんだけどな」

カタコト女子が、金髪の手から、小銭をひったくる。

「行ってまいります、ぶちょー!うりゃー、ハーゲンダッッッッッッッシュ」

すごい勢いで、飛び出して行った。おどろいて、その背中を見送る。

「すみません、気を使わせちゃって」

「いいんだ。お客さんにサービスするのは、当たり前だからな」

再び出た『サービス』ということばを聞いて、さっきから気になっていたことを質問した。

「何か売ってるんですか」

金髪がニヤッと笑う。

「百聞は一見にしかず。見ていって、俺らの店」

さっきの女子が座っていた椅子の後ろに回りこんで、いすの後ろの木の板のかべを押す。

回った。

は?目の前の、忍者屋敷のような光景に、おどろいて声も出ない。

「びっくりした?俺らの部活ちょっとブラックだから、防犯用」

いや、びっくりした?、のレベルじゃないだろ―――!!!

なんで、防犯で忍者屋敷ぃ?

部活で、防犯するほどのブラックって何?

「ちょっーとシステムが古いんだよなー」

これ、古いって言葉でかたづけて、いいレベルなのか!?

また、赤いサイレンが頭の中を回り始める。

金髪が、ズンズンと回転とびらを、くぐって行ってしまうので、僕もあわててついていく。

「うわぁ!」

中に入ると、教室の中のはずなのに、屋台がたくさん並んでいる。右、左、前に、それぞれ色の違うものが1つずつ。

まるで、お祭り会場に迷い込んだかのようだ。

金髪がくるりと振り返って、言った。

「寄ってらっしゃい、見てらっしゃい。ここが商人部の部室だ!」

逃げ出すには、もうおそいみたいだ。



「リョウ、あんた、今日は休みだよ。勝手にお客さん入れたら、また怒られるよ」

右の赤い屋台から長いポニーテールの女子が出てきた。

しゃべり方が江戸っこみたいだ。

「いや、客じゃなくて入部希望者らしい」

いや、入部希望者でもありませんけど―――

悲しいことに言えないので心のなかでツッコミをいれる。

こんなナゾでアヤシイ部活になんか入るかぁ!さっき自分でブラックって言ってたし!

「入部希望者だって?今年は入れないって...」

「ああ、だから見学だけ。休みだから、品は少ないけどな」

「好きにしな」

江戸っこ女子がちょっとため息をついて、屋台にもどっていく。自分はメイワクなんだろうか?ワガママを言って見せてもらっているわけではないけど、ちょっと金髪に申しわけない。

「好きにされたら困るんだがな」

急に背後から暗い圧のある声が聞こえる。

バッと振り向くと回転とびらの前に男子が立っている。

「ごめんって。一周回って見てもらうだけだから」

男子はフキゲンそうにこちらをニラんでいる。

帰りたい。

そう思っていたら急に勢いよく回転とびらが開いて、フキゲン男子がぶっ倒(たお)れる。

「おい、ぶちょー。てめ、お釣り10円でなに買えと!」

お使いに行ってたカタコト女子が回転扉を飛び蹴りで開けて、フキゲン男子の頭にツッコんだらしい。カタコト女子は、すぐに起き上がり金髪をキッとニラむ。金髪がひょうひょうとした口ぶりで答える。

「うまい棒くらい買えるだろ」

「うまい棒税こみ11円!」

「5円チョコとか」

「5円チョコは5円じゃ買えない!」

カタコト女子は、ニャーともヤーとも聞こえる叫び声を上げて立ち上がる。そして、ふたたび金髪のもとに突進しようとする。

が、足をつかまれ、派手に転ぶ。フキゲン男子が立ち上がり顔をあげた。キレてる。

「てめえ、人蹴ったんだから謝れや」

カタコト女子が顔を上げる。鼻が赤い。

「悪かった。けど、ここまでしなくてもいい!レディーの顔に傷つけて」

「何がレディーだ、暴カゴリラ」

あっという間に乱闘さわぎだ。

あんぐりと棒立ちしていたら、金髪が軽快に僕に話し始めた。

「いつもこんなだから気にしなくていいよ、ほら、お前ら1年生が困ってるだろ」

「「元はと言えば、あんたのせいだろ!」」

もっともな正論である。だけど、金髪がニヤリと笑いながら答える。

「俺がお前らにおごると思うか。そりゃあ考えが浅はかだったな。俺の金は俺に使われることを求めているんだよ。てめぇらにタダであげる金なんかあるか」

いや、言ってることがろくでなしだよ!

堂々とクズ発言をかました金髪は、堂々と乱闘の間に転がったペットボトルのお茶を渡してくる。渡されて戸惑ったが、飲まないとここまでのくだりが無駄になってしまう。

素直に受け取って一口飲む。少し緊張していたからか、のどが、かわいていたみたいだ。いつもより、おいしく感じる。

「今日は日が悪かったみてぇだし、見学はムリだな。まぁ、こりずに、また来いよ」

そういって金髪は手を差し出した。握手なんて照れくさい、と思いつつも手を伸ばして部長の手をニギる。

「楽しかったです。また客として来ます」

ずっと笑顔のままの人だったなと手をおろしつつ思う。が、下がる手をつかまれる。

「ん?やめろよ、ジョーダンなんか」

「へ...?」

「へ...って、お代だよ。お茶飲んだだろ」

ニギられた右手と左手に持つペットボトルを交互に見比べる。


お前のオゴリじゃねえのかよ―――!!!


「おい、ぶちょー」

カタコト女子が咎めるように金髪を見る。だよね。おかしいよね。

フキゲン男子の胸ぐらをつかみつつ、カタコト女子が紙切れを渡してくる。

「それじゃ値段がわからない。ほら、りょーしゅーしょー」

受け取って、のぞき込む。


100000えん


10万―――?

ボッタクリじゃねえか―――!!!


「すいません、今お金持ってないので。てか、これマチガイですよね」

「ちょっと高いかぁ?まぁ、ここ自販機から一番遠くてな」

「ワタシ、お釣り10えんで動くような安い女じゃない。フツウなら100万ドルの夜景がほしいとこ、負けてやってる。感謝しろ」

お前の給料、規格外すぎだろ―――!!!

「おい、」

フキゲン男子が、カタコト女子をふりはらって言う。

「こいつ、金持ってねえって言わなかったか」

ひぃ、この人、めっちゃコワい。

「いや、んなわけねえだろ。俺ら相手に飲み逃げとか」

「商人部の看板背負ってるワタシらから?ね、そーちょー」

おいおい、ワルみたいな感じ出しちゃってるけど。呼び方が部長から総長に変わってるんだけど。

「マジもんだよ、その人は」

「え...?」

屋台から、さっきの江戸っこ女子が出てきた。

「マジの総長。ここらのヤンキーどもをまとめている『僧沙羅(そうしゃら)』ってチームの。元だがね。」


ま、ま、ま………マジでブラックだった―――――――!!!!!


「すいません、ゴメンナサイ、申し訳ございませんでした―――」

全力で頭を下げる。

「マジでないのか?」

さっきまでは、やさしかった金髪の声が、明らかに暗くなった。コワくて顔が上がらない。

「すいません、すいません、すいません!!」

「おい、ツラ上げろぉ」

おそるおそる顔を上げる。

金髪は、笑っていた。


「じゃあ、てめえ、今日からここでタダ働きだ。」


「ふぇ...…?」

ただボーゼンとした。


「いやっふぅ―――!!新入部員ゲットだぁ!!」

「この調子でバンバン入れるぞ、お前ら―――!!」

「アタイの名演技のおかげよ―――」


は、は、ハメられたぁぁぁ―――


「運が悪かったな。ホントは俺たちもこんなことしたくはねえんだが、一人でも多く入れねえとなんだわ」

そう言うさっきまでフキゲンだった男子は、笑っている。

部員たちが喜んでいるうちに金髪が近づいてくる。

「…なんですか」

うつむいて言った。

「なんだよ。文句か。おれが人のために金を使うわけねえって言ったろ」

バッと顔を上げる。

「全部演技なんですか!!」

ダマしやがって。こんなトコすぐ出てってやる!

金髪がしたり顔で言う。

「あー、確かに、新入部員は入れないっつったのはウソだな。油断させるためのな。いや、でも、働いてもらうのはホント。こっちは商売やってるから。あと....」

「あと...?」

金髪がとびきりの笑顔になって顔を近づける。

「俺が、元ヤンで、総長やってたのも、ホ・ン・ト♥」

固まって動けない。

「よろしくなあ。新人バイト」

金髪の顔が離れる。選択肢は一つしかない。

「よ、よろしくおねがいしますっ!!」

ほとんど土下座の状態で言う。

体がガクガクしているが、同時に、なぜかワクワクしている自分がいた。

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