スライムでも恋がしたい!

倉名まさ

第1話 スライムのあこがれ

語り手……スライム。メス? ラピスと名づけられる

聞き手……男。会社員。ご主人様と呼ばれる。町で干からびかけていたスライムを偶然助ける。


(男の部屋のリビング。男の前で、青いスライムが嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねている)


SE:スライムの跳ねる音

(元気な声で)

ぴきゅぅ~


ご主人様、ご主人様~


このたびは、危ないところを救っていただき


ありがとうございました~


きゅきゅぅ~


えっ「そのご主人様ってなに」って……


だって、ご主人様は命の恩人じゃないですか!


大げさじゃないです~


ほんとに死にかけてたんですもん!


路地裏で干からびそうになって……


誰もわたしのことなんて気づかなくて……


そんなわたしにご主人様は


お水を恵んでくださり


こうしてうちまで連れてきてくれました!


そのうえパンやタマゴまでごちそうになって


感謝感激ですっ!


きゅきゅきゅぅ~!


ご主人様がいなければ


もうわたしはこの世からいなくなってました


だから、ご主人様はご主人様なのです!


せっかくご主人様に命を救ってもらったので


恩返しさせてください!


残るスライム世をかけて


誠心誠意ご主人様にお仕えいたします~


……「何ができるのか」ですか?


(少し困った感じで)

ぴきゅうぅ~


それは、えっと……


これから考えますです!


きっと色々できると思います!


がんばります!


がんばります、ので……


おうちにおいて頂けませんか


ご主人様?


(さらに元気に)

ぴゅいぃぃ~


ありがとうございます~、ご主人様!


えっ「そもそもなぜスライムであるわたしが


街中でくたばりかけていたのか」ですか?


(ためらいながら)

そ、それはそのぉ……


実はわたし……


ダンジョンを家出してきちゃったんです!


ぴゅきゅうぅ


どうしてかと言いますと……


実はわたし、昔から人間の町に憧れていまして……


ご主人様もごぞんじのとおり


わたしたち魔物はダンジョンの住民です


町の近くのダンジョン、ご主人様もご存知ですよね?


はい、あそこに住んでました~


わたしのほかに


外に出たがる魔物なんて他にいませんでした


(少し怒った感じで)

……でもですよ!


知ってますか、ご主人様!?


ダンジョンってすっごく暗くてじめじめしてて


殺風景なんですよ


そうそう、それです!


陰気で不気味なんです


毎日気が滅入っちゃいます


きっと、あんな暗~いとこに毎日いるから


みんなイライラして人間を襲っちゃうんだと思います!


あんなとこ、わたしのような


うら若きスライムがいるような場所じゃないです!


きゅきゅきゅぅ~!


(きょとんとしながら)

「ダンジョンってふつうそういうもの」ですか?


まあ、そうなんですけど~


ご主人様のおっしゃるとおり


わたしたち魔物にとっては


暗くてじめじめなのが快適みたいです


お外に出て痛感しました


太陽があんなに暑くてまぶしいなんて


殺意を感じました


焼き殺されるかと思いました


(悲しそうに)

ジリジリと体が焼けて水分が抜けていって……


町の中で動けなくなって……


ぶるぶるぶるぶる


思い出しただけでも悲しくなってきちゃいます


はい……


せめて、夜になってからお外に出るべきでした


(元気になって勢いよく)

でも、わたしはあきらめません!


たとえ死にかけても


そのおかげでご主人様に出会えたんですから!


逆にラッキーだったんです!


わたし、人間の町で暮らすのに


ずっと憧れていたんです!


干からびかけてあんまりちゃんと観光できなかったけど


でもでも、人の町はワクワクがいっぱいでした!


ゲームセンターとかカラオケボックスとか


アニメグッズ屋さんとゲーム屋さんとか


メイド喫茶さんやコンカフェさんもいっぱいありました!


ずっとずっと、行ってみたかった場所がたくさんあって


ワクワクしました!


……「なんでそんなもの知ってるのか」ですか?


もちろん、アニメやゲームで知ったんです!


あとはブイチューバーさんの動画配信とかも大きいです!


(少し生意気な感じで)

ええ~、ありますよ~


ダンジョンにだってアニメ観れるテレビくらい


ご主人様、ダンジョンのことバカにしてませんか?


ワイファイっていうんでしたっけ?


ちゃんとインターネットだって通じるんですから!


でないと、人間の冒険者さんたちだって


ダンジョン配信とかできないじゃないですか~


じょ~しきですよ、じょ~しき!


えっ、イメージと違いました?


え~、そうなんですか~?


う~ん……


そう言われてみますと……


わたしたち魔物も人間の生活のこと


アニメとかでしか知らないし


いっぱい誤解とかしてるかもです


お互いまだまだ知らないことがたくさんありそうですね


(元気よく)

じゃあじゃあ、ご主人様がわたしに


人間の生活のこと


たくさん教えてくださいよ~!


その代わりわたしにできることなら


なんでもやりますから!


やった~


きゅきゅきゅるるぅぅ!


改めてこれからよろしくお願いします~


ご主人様っ!


えっ、名前、ですか?


あ~、えっとわたしの名前


人には発音しにくいものなので……


よければ、ご主人様につけて頂きたいです


はいっ、直感でかまいませんので!


ゲームやるときに名前を入力するみたいなノリで


こうスパパッとですね


呼びやすそうな名前を付けてください!


文句は言いませんから


――ラピス、ですか?


(感激して)

ほわぁぁ……


きゅぴるるんっ


ステキなお名前です!


ラピス、ラピス……


これがわたしの名前


きゅぴいぃ~……


なにか由来があるのでしょうか?


ラピスラズリという宝石があるのですね?


それに色が似てるから、ですか?


SE:スマートフォンを取り出す音

えっ、この画像のこれですか?


ふあぁぁ~、こんなキレイな宝石から


感激ですっ!


ありがとうございます、ご主人様


嬉しくって体が溶けちゃいそうです~


あっ、そんなあわてて水ご用意いただかなくて大丈夫です!


スライム的慣用句ですのでっ!


どうかどうか、さっそくラピス、って呼んでいただけますか


どうぞっ


(名前を呼ばれて嬉しそうに)

はいっ、ラピスです!


ふへへへへへ~


これからラピス、ご主人様のために


一生懸命がんばりますねっ


気に入ったどころじゃないですよ~


きゅきゅきゅうぅ~


幸せです~


勇気を出してダンジョンから出てきて


ほんとによかったです!


こうして優しいご主人様に拾っていただけて


ラピスはとってもラッキーです


きゅぴいっ!


SE:スライムが元気よく跳ね回る音


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